東京大学は,山梨大学と共同で,生きた哺乳類脳の神経発火活動・シナプス活動を計測するための超高感度・超高速カルシウム(Ca2+)センサーの青,緑,黄及び赤色の「XCaMP」シリーズを開発した(ニュースリリース)。
Ca2+が神経発火に伴い細胞内に流入することを生かして,蛍光Ca2+センサーを用いて脳情報を解き明かす試みが近年急速に広まっている。しかしながら,従来のCa2+センサーは,1)遅い反応動態のため発火パターンの読み取りが不十分であることと,2)蛍光の色が少なく,用途が制限されていた。
特に,脳は複数の異なる神経細胞種の協調的な発火パターンにより正常機能を発揮すると考えられているが,これを解明するための高性能多色Ca2+センサーの開発が望まれていた。
今回研究グループは,Ca2+センサーの多色化変異を試み,青色の「XCaMP-B」,黄色の「XCaMP-Y」及び赤色の「XCaMP-R」を創出した。中でもXCaMP-Rが赤色と長波長シフトしているため,光の組織内散乱が少ないことを利用し,可視化対象上部の大脳皮質を一切除去せず,非侵襲的に海馬CA1領域の錐体細胞神経活動の直接計測を実現した。
これらにより,マウス生体内において高頻度発火神経細胞の発火パターンの読み取り及び3種の異なる細胞種の多重計測に成功した。この成果は,今後生きた哺乳類脳における神経活動およびそのダイナミクスの多重計測を容易にし,精神疾患や学習・記憶障害などの病態解明および治療法の開発につながるもだとしている。