玉川大学の研究グループは,Y-00光通信量子暗号(Y-00暗号)の通信実験を行ない,1,000kmの光ファイバー暗号通信に成功した(ニュースリリース)。
近年,ネットの利便性が高まる一方でサイバー攻撃などの脅威が増大し,ネット全体に高水準のセキュリティレベルが要求されている。特に,大容量の情報の通信を担う光通信回線へのサイバー攻撃対策は強く求められている。
研究グループは,光通信回線の安全性を高めるセキュア通信方式を実現することを目的として,Y-00暗号の研究に理論と実験の両側面から取り組んでいる。Y-00暗号の特徴のひとつに,従来の光通信システムと親和性が高いことが挙げられる。これにより新規のインフラを作り上げることなく,既存の光通信インフラの中で利用することが可能となる。
また,研究グループはポータブルな「Y-00暗号トランシーバー」(送受信機)を開発。これまで,トランシーバーを用いた通信特性評価実験では,主にネットワーク応用や多重通信方式などへの応用を実証してきたが,長距離通信特性の評価は実施していなかった。
今回,研究グループはこのY-00暗号トランシーバーを用いて,Y-00暗号の長距離通信実験を実施した。光を直接中継する光増幅器を用いて光ファイバー伝送路を構築し,全長1,000km(およそ東京-北九州間と同距離)の光ファイバー通信回線で変調速度1.5Gb/s毎秒の暗号通信実験に成功した。
今回の実験に使用した全長1,000kmの光ファイバー通信回線は,送信端と受信端の両方にY-00暗号トランシーバーを設置した。トランシーバーは,コンパクト(幅約43cm,高さ約4cm)な仕様で一般的な通信機器の規格に納まる。
なお,トランシーバーはメディアコンバーターのようにギガビットイーサネット(GbE)とY-00暗号を相互変換する機能を備えている。Y-00暗号は「盗聴者に暗号を傍受させない」ことを特長とする光通信向けの暗号で,超多値変調信号を用い雑音マスク効果を利用する。
今回の実験では,4096値の変調信号(変調速度:1.5Gb/s)を用いた。送信端から出力されるY-00暗号信号の波形では,4096値の強度変調信号は雑音のように見える。これは,盗聴者が観測する波形で,雑音のように見えることが望ましい。
1,000kmの伝送路は,長さ40kmの光ファイバー伝送路の後に信号光を光増幅器で増幅中継する構成で,合計25個の光ファイバー伝送路と光増幅器を用いた。1,000km伝送後の波形では,盗聴者には雑音のように見えるが,正規受信者は情報を復号するための暗号鍵を所有しているので,元の情報に戻すことができる。実験では符号誤り率を測定し,エラーなく暗号通信ができていることを検証したという。
研究グループは,今回の研究により,Y-00暗号の実利用に向け開発が大きく前進したとしている。