北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は,オランダ・トゥウェンテ大学,オーストラリア・ウォロンゴン大学と共同で,シリセンと六方晶窒化ホウ素(hBN)の積層構造を二ホウ化ジルコニウム薄膜上に形成し,シリセンの構造と電子状態を乱さずに,大気中で1時間以上の酸化防止が可能であることを世界で初めて実証した(ニュースリリース)。
シリセンは,原子一層分の厚みしかない,究極に薄いケイ素(Si)の二次元結晶。1994年に日本人研究者によってシリセンの安定な構造を理論的に研究した成果が発表されている。その後,炭素(C)の二次元結晶「グラフェン」に関する研究成果が2010年度のノーベル物理学賞を受賞するなど大きな注目を集め,そのSi版であるシリセンの研究が世界的に行なわれるようになった。
研究グループは,2012年にSiウエハー上のエピタキシャル二ホウ化ジルコニウム薄膜上にシリセンが自発的に形成することを発見した。今回,その二ホウ化物薄膜表面を窒化して形成した原子層厚みのhBNシートにSiを蒸着したところ,Si原子がhBNシート下に挿入され,二ホウ化物薄膜とhBNシートの間にシリセンが形成された。
hBNは,「白いグラフェン」と呼ばれることもある絶縁性の層状物質で,シリセンとの相互作用が小さいことが理論的にも予測されていたが,今回,放射光施設における角度分解光電子分光測定により,シリセンの電子状態がhBNに影響されないことが実験的に明らかとなった。さらにhBNにより,シリセンが大気中で1時間は酸化されないことも明らかとなった。
この成果により,シリセンと良好な界面を形成する絶縁性酸化防止膜としてのhBNシートの性能が実証された。これは,これまで酸化されやすいために大気中での取り扱いが困難であったシリセンを超高真空環境から取り出す可能性を拓いたものだとする。
研究グループは,今後,このhBNシート上にさらに厚く保護層を形成することでシリセンを大気中で安定的に取り扱うことが可能になり,従来困難であった大気中での評価や加工,ひいてはデバイス作製へと発展することが期待できるとしている。