理化学研究所(理研),金沢大学らの国際研究グループは,国立天文台,理化学研究所,京都大学のスーパーコンピュータを用いて,宇宙最大の爆発現象である「ガンマ線バースト」におけるスペクトルと明るさの相関関係(米徳関係)を,数値シミュレーションによって理論的に再現することに成功した(ニュースリリース)。
ガンマ線バーストの放射機構の理論モデルとして,近年「光球面放射モデル」が注目を集めている。しかし,理論的な精査はまだ不十分であり,このモデルの妥当性を実証するには至っていない。光球面放射を適切に評価するためには,大質量星の外層と衝突しながら伝搬するジェットから放出されるガンマ線を理論計算から見積もる必要がある。
しかし,多くの研究は簡単化した状況設定における計算や,近似的なアプローチを採用しているため,現実的なジェットのダイナミクスを反映した光球面放射の詳細は解明できていない。
今回,研究グループは,大質量星(太陽質量の16倍)の中心領域から噴出された相対論的ジェットの光球面放射を,大規模な3次元相対論的流体シミュレーションおよび輻射輸送シミュレーションを実行することによって評価した。
その結果,ガンマ線バーストの観測から経験則として知られていた「スペクトルのピークエネルギーと明るさの最大光度の間に成立する相関関係(米徳関係)」が再現されることが明らかになった。
ジェットは星の表面を突き破った後に,内部に捕縛していたガンマ線を放出するが,星の外層物質と衝突することで中心軸から離れるにつれて,エネルギーやローレンツ因子(相対論的な速度の指標)が小さくなるといった構造を形成する。
その構造を反映して,観測者の視線方向が中心軸から離れるほど,観測されるピークエネルギーと明るさが共に小さくなり,2つの観測量に相関が生まれる。その相関関係が,ジェットのパワーや継続時間によらず,ガンマ線バーストの米徳関係とよく整合することが示された。
今回の研究成果は,現実的な状況設定に基づき光球面放射の詳細な評価を行なうと,米徳関係が自然に再現されることを意味している。米徳関係は,ガンマ線バースト放射の主な成分の普遍的な性質を反映している。そのため,光球面放射以外の寄与を排除できないものの,この事実はガンマ線バーストの主な放射機構は光球面放射であることを強く示しているという。
研究グループは,経験則であった米徳関係の理論的基盤を示した今回の研究成果は,長年の謎となっていたガンマ線バーストの放射機構の解明に大きく貢献するとしている。