東京大学,大阪大学,東北大学,米プリンストン大学,インド天文学天体物理学大学連携センターは,約260万光年の距離にあるアンドロメダ銀河と我々の天の川銀河の間に存在するダークマターが原始ブラックホールではない可能性が高いことを観測的に初めて明らかにした(ニュースリリース)。
宇宙には通常の物質の約5倍の総量のダークマターがあることがわかっている。ダークマターの候補の1つが,宇宙が高温かつ高密度だった宇宙初期に形成されたかもしれないブラックホール(原始ブラックホール,大きさ0.1mm以下)。例えば月質量(太陽の質量の約2700万分の1)より軽い原始ブラックホールがダークマターである可能性は,従来の観測では否定されていなかった。
そこで,研究グループは,原始ブラックホールがダークマターである可能性を調べるため,ハワイすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC:ハイパー・シュプリーム・カム)」で観測されたアンドロメダ銀河の画像を解析した。アンドロメダ銀河は地球から最も近傍(距離約260万光年)にあり,その間には銀河に星をとどめる大量のダークマターがあると考えられる。
今回,研究グループはブラックホールの存在を検証するために,原始ブラックホールの重力レンズ効果に着目した。この重力レンズ効果は,星の多重像を分解して観測できず,1つの星が明るさだけ変化するように見える現象のため,「重力マイクロレンズ効果」とも呼ばれる。
この重力マイクロレンズ効果の探索には,HSCの広視野とすばる望遠鏡の口径8.2mの集光力により,約7時間にわたり約2分間隔で約190枚のアンドロメダ銀河の連続画像取得した。その画像を詳しく解析し,明るさが変化している星を探したところ,約15000個もの時間変動する星を発見することができた。
さらに,その時間変動する星から,重力マイクロレンズ効果が予言する明るさの時間変動と一致する天体を探した。その結果,ダークマターが原始ブラックホールである場合は1000個程度の重力レンズ効果を発見できるという予言に対し1個だけの重力マイクロレンズ候補星を見つけ,その追観測が待たれるとした。
今回検証により,太陽質量の10億分の1(月質量の30分の1程度)の軽い原始ブラックホールがダークマターであるシナリオを初めて棄却した。一方,今回の観測では,太陽質量の1-10兆分の1程度の原始ブラックホールがダークマターである可能性は棄却できなかった。この成果は天文学だけでなく,素粒子物理学にも影響を与えるものだとしている。