京都大学は,水蒸気の小さな気泡(マイクロバブル)を使って少量の液体を一方向にポンピングすることで,急激な流れを発生させることに成功した(ニュースリリース)。
少量の液体を自在に動かす技術の開発は,化学・医療分析技術から電子部品の冷却技術まで幅広い分野において急務となっており,特にマイクロメートルスケールの小さな容器に詰められた液体を自在に操る方法が重要となる。
研究グループは,脱気した水をレーザーと金ナノ粒子を使って局所的に加熱すると,主に水蒸気でできたバブルが発生し,その周辺に秒速1m程度の非常に速い流れができることを見出していた。そこで今回,バブルの周りの流れの向きを自在に操ることに挑戦した。
今回,ガラス基板上に10nm程度の金ナノ粒子薄膜を作製した。この薄膜は光を効率よく吸収し熱に変換する。そのため,薄膜にレーザー光を集光するとその部分が局所的に発熱し,光のスポットの形を変化させれば,熱源の形を変えることもできる。
研究グループは,この熱源を使って脱気した水を局所的に温めてバブルを発生させ,その周りの温度分布を変えてやれば,バブルの周りの流れの向きも変えられると考え,レーザースポット上に生成したバブルの隣に,もう1点サブレーザースポットを追加した。
その結果,サブレーザースポットの強度に応じて流れの向きが傾いていくことがわかった。これは,サブレーザースポットにより,薄膜表面に平行な方向の温度差がバブル表面に生まれ,その方向にも水が動かされるようになったたと予想している。
研究グループは,流れの方向の変化をより定量的に評価するために,水に対してどの方向にどのくらいの力がかかっていたかを見積もった。バブルの表面に働いている力を積分すると,ある大きさと向きを持った1点に働く力として表すことができる。このような点に力がかかっている状態を「点力」と呼び,その周りに発生する流れを計算すると,実験結果と非常によく一致することがわかった。
また計算結果から,サブレーザースポット強度が大きくなると,基板に対して垂直な向きの力が減少し,平行な向きの力が増大することがわかり,基板表面に平行な方向には最大0.01μN程度の力をかけられることもわかった。
今回の研究成果により,流路の壁の近くにこれまで生成が困難であった一方向の流れを発生させることができるようになった。この力はマイクロ流路の中で得られる力としては非常に強く,流れの向きや強さを任意に選ぶことができるため,少量の液体を自在に動かすマイクロポンプとして有用な技術だとしている。