京都大学,東北大学,量子科学技術研究開発機構らの研究グループは,エネルギーの低い軟X線の分析によって,世界で初めてベリリウム金属間化合物(ベリリウムとその他の金属で構成される化合物)の価電子構造を明らかにし,化学状態分布を解析することに成功した(ニュースリリース)。
新材料の開発において,電子顕微鏡観察や元素マッピングによって試料の微細構造情報を得ることは不可欠な手法となるが,軽元素であるベリリウムはX線発光効率が低いため,従来の実験室レベルの手法ではマイクロスケールの化学状態分布を得ることはできなかった。
今回の研究では,電子プローブマイクロアナライザー用に近年開発された軟X線分光器を用いて,ベリリウムやその金属間化合物,そしてその酸化物被膜の分析を行なった。この装置では,ベリリウムから発生する低エネルギー(100~112電子ボルト)の軟X線発光スペクトルを高エネルギー分解能で測定することができる。
測定試料にはベリライドを用い,密度汎関数理論に基づく電子状態計算により,軟X線の理論波形をシミュレーションし,発光ピークの同定を行なった。
研究グループは,軟X線分光発光分光器によって得られたベリリウムとベリリウム化合物(Be12TiとBe12V),酸化物相 (ベリリア:BeO)の実験軟X線スペクトルにより,ベリリウムが遷移金属との化合物となることで生じる電子状態の変化を,実験によって世界で初めて明らかにした。
この発光スペクトルは電子状態計算で得られた理論的な状態密度とよく一致し,遷移金属の電子軌道との混成によって電子構造が変化していることを示した。また,ベリリウム化合物が酸化した際に酸化皮膜として生成するベリリアは,ベリリウム化合物と比較して軟X線ピークが4電子ボルトほど低エネルギー側にシフトすることがわかった。
この大きなケミカルシフトと電子構造情報を利用して,水蒸気酸化したベリリウム化合物の化学状態分布の解析を行なった。 元素/化学状態マッピングから,実験前は単一相であったベリリウム化合物(Be12V)が水蒸気酸化によって表面に薄い酸化皮膜が形成し,バナジウムを多く含むBe2V相が生成していることが確認できるという。
研究グループは,今回の研究により,ベリリウム化合物や酸化物相のミクロな化学状態分布を可視化できるため,核融合炉などの高温環境で利用される機能性ベリリウム化合物の開発に役立つとしている。