東京大学,産業技術総合研究所らの研究グループは,人工知能で利用されるニューラルネットワークを応用し,スペクトルから物質の構造や機能を,直接かつ定量的に,高速かつ高精度に決定する手法を開発した(ニュースリリース)。
スペクトルには原子の配列や結合に関する情報が含まれている。さまざまな分光法でスペクトルを測定し,解析し,物質の構造や機能に関する情報を導き出す手法は,半導体や触媒,電池,高分子などの物質開発の現場で広く使われている。
しかし,解析には,高度なスペクトルの理論計算を実施し,得られた計算結果を専門知識に基づいて解析する必要があり,数日から数週間を要していた。また,測定実績のない未知の物質のスペクトルを解析することは非常に困難だった。今回,研究グループは人工知能にも利用されている手法を利用し,専門知識や理論計算を用いることなく,スペクトルから物質の構造や機能に関する情報を直接決定する手法を開発した。
この手法の開発のために,188種類の酸化シリコン化合物の酸素原子サイトから,1171個のスペクトルを測定し,ニューラルネットワークという機械学習法を用いて,構造・機能の予測を行なった。ニューラルネットワークでは,入力データと出力データをつなぐネットワークを学習によって最適化する。
研究ではスペクトルを入力データとし,従来のスペクトル解析から予測された物質の構造・機能情報を出力データとした。物質の構造・機能情報として,シリコン-酸素間の結合距離,シリコン-酸素間の結 合角度,酸素原子周辺のボロノイ体積といった幾何学的なものに加えて,イオン 結合性,共有結合性といった結合物性,さらに,スペクトルの遷移エネルギーといった内殻軌道特性を用いた。
学習結果と予測結果を示した図では,すべての構造と機能において,学習から導き出された値と従来のスペクトル解析から予測された値とが,対角線上にプロットされていることがわかる。これはスペクトルから物質の構造や機能に関する情報を直接定量化できていることを示している。一方,黄色い矢印で示したように「外れ値」も散見された。
今回,それら外れ値の起源も調べ,その解決策も明らかにした。さらに,シミュレーションにより得られたスペクトルだけでなく,実験で測定されるノイズを含むスペクトルを使って,構造・機能の定量化も行なった。その結果,実験スペクトルを使っても,構造・物性値を高い精度で定量化できることがわかったという。
研究グループは,今回の手法により,物質を解析する現場で,高速かつ高精度に構造や機能を定量的に知ることが可能となり,高機能な物質の探索に貢献することが期待できるとしている。