理科大ら,pn接合で電子の波動的状態を実証

東京理科大学は,自然科学研究機構 分子科学研究所,および千葉大学,高輝度光科学研究センター,産業技術総合研究所の研究グループとの共同研究により,分子を非常に規則的に整列させた有機半導体pn接合において,電子が素早くスムーズに動くことのできる「波動」的な状態になることを実証した(ニュースリリース)。

一般の半導体太陽電池は,「pn接合」において負の電荷を持った電子と正の電荷を持った正孔(電子の「空席」)とが別々に引き離され,自由に動くことのできるようになった「キャリア」になることによって発電する。

多くの有機半導体において,励起子はその寿命の短さから0.1μ程度しか動くことができないとされている。このため,従来の有機太陽電池ではドナー分子とアクセプター分子を混ぜ合わせることで0.1μ程度まで入り組ませた複雑な構造のpn接合(バルクヘテロ接合)を作ることが必要とされてきた。しかし,このような複雑な構造では分子の並び方に乱れが多く,生成したキャリアが電極まで必ずしもスムーズに移動できない。このことが有機太陽電池において,その光電変換効率を損なう要因となっていた。

今回の研究では,分子線エピタキシー法(MBE)を有機半導体材料に適用することで,ドナー分子の単結晶上にアクセプター分子を規則正しく整列させた有機半導体pn接合を作製することに成功した。さらに,作製した結晶性pn接合を角度分解紫外光電子分光法により計測することで,アクセプター分子の結晶薄膜において電子が波動的な性質を示す証拠となる価電子バンドの形成を明らかにした。

今回の研究でドナー分子として用いたペンタセンは,ベンゼン環が5つ連なった構造をもつ代表的なp型有機半導体分子で,その単結晶が価電子バンドのエネルギー分散を示すことがすでに明らかになっている。一方,アクセプター分子として,ペンタセン分子のもつ水素原子を全てフッ素原子で置き換えてできるフッ化ペンタセンを用いた。

今回,大型放射光施設SPring-8の「BL19B2」を利用した最先端の薄膜X線回折実験により,ペンタセン単結晶の上でフッ化ペンタセンが結晶方位を一様に揃えて高品質な結晶薄膜を形成することを明らかにした。さらに,こうして形成されるフッ化ペンタセン結晶薄膜においても,広くエネルギー分散した価電子バンドが形成されていることを,角度分解紫外光電子分光実験により実証した。

研究グループは,広いエネルギー分散を伴った電子バンドの形成は,電子が素早くスムーズに移動できる波動的な状態になるための必要条件となり,今回の研究の結果は,電子も正孔も波動的な状態を示す有機半導体pn接合が有機半導体エピタキシー技術によって実現可能であることを,初めて直接的に証明するものだとしている。

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