2017年3月に茨城大学大学院理工学研究科博士前期課程を修了した米谷拓朗氏が観測した太陽偏光分光解析の投稿論文が,日本天文学会刊行の欧文研究報告誌の「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された(ニュースリリース)。
この研究は,2015年8月9日に発生したCクラスフレアのフレアカーネルに伴うHeI 1083nmの輝線とその偏光を,京都大学飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡を用いて,米谷氏が中心になって偏光分光観測した解析となる。
偏光メカニズムとしてゼーマン効果とパッシェン=バック効果に加え,大気モデルとして1つの吸収成分,2つの速度の違った輝線成分を考慮することで,世界で初めてフレアカーネルのHeI 1083nm偏光スペクトルから磁場ベクトルを導出した。
その結果,2つの輝線成分は磁場の方向,強度(1380G)ともに,同時に測定された光球の磁場ベクトルと同様の値を持つことが明らかになった。フレアによって生成された非熱的高エネルギー電子が彩層に突入し,彩層の低層部で散逸することで,高温プラズマが彩層の低層部に形成され,高温プラズマの周囲で衝突や放射による中性Heの励起が起こり,HeI 1083nmの輝線が彩層低層部から放射されたと解釈した。
さらに HeI 1083nmの輝線が放射された大気層の密度と非熱的電子エネルギー分布のべき指数を仮定し,見積もられた非熱的電子エネルギー分布の低エネルギー側のカットオフ20-30keVは,観測された硬X線スペクトルから見積もられた値と一致したという。
この論文は,2018年12月に出版。米谷氏の博士前期課程の修士論文の一部を論文化したもので,9ページにおよぶ。論文のタイトルは「Measurement of Vector Magnetic Field in a Flare kernel with a Spectropolarimetric Observation in He I 10830 A」。なお,この論文は,Oxford AcademicのWebサイトで閲覧・ダウンロード(有料)できるとしている。