産業技術総合研究所(産総研)は,ガスからクラックのない1cm3級の体積を持った単結晶ダイヤモンドの作製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
パワー半導体は,電力インフラ,自動車,鉄道車両,産業機器や家電などさまざまな設備・機器に適用され,それらの高性能化や省エネルギー化を支える重要なデバイス。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務める内閣府プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/次世代パワーエレクトロニクス」では,2014年度からシリコン(Si)に代わる炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN),酸化ガリウム(Ga2O3),ダイヤモンドなどの新材料を用いたパワー半導体を製品へ適用するための技術開発を推進し,電気機器の大幅な高効率化と小型化を目指してきた。
中でもダイヤモンドは,耐電圧や熱伝導率などの物性値が半導体物質中最高水準で,広範な応用が期待されている材料。その実用化の前提となる大型ウエハーの実現と供給体制を確立することが望まれている。
今回研究グループは,マイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンド合成において,マイクロ波のパルス化や結晶保持構造の最適化による試料周辺の熱平衡性の向上,試料位置の精密制御による長時間成長中のプラズマ/試料表面間距離の維持,および原料ガスへの微量酸素添加による結晶ホルダー・試料周辺における異常成長の抑制などにより,一度の合成で2~5mmの厚さまでクラックを発生させず連続的に結晶を成長させることができた。
従来の作製方法では,クラックが入る前のサブミリオーダーの厚さで一度成長をやめ,再度結晶成長を行なうという処理を何度も繰り返して厚膜化する必要があったが,不純物濃度の不連続性や転位の発生源となる多くの成長界面が混在することとなり,これがひずみや結晶性の劣化の蓄積につながり,結果としてクラックを引き起こしていた。
今回開発した技術では,このような結晶成長の繰り返し作業を大幅に減らすことができるため,厚膜化によるひずみや結晶性の劣化を十分に抑えた高品質のダイヤモンド結晶をミリ単位で作製することができるという。
研究グループは今回の成果について,パワー半導体などのエレクトロニクス分野だけではなく,スピントロニクス分野への応用も考えられ,ダイヤモンドは室温・常圧で空間分解能の高い量子情報を扱えることなどから,センサーや量子コンピューティングなどのさらなる高性能化につながる可能性があるとしている。