窪田製薬ホールディングスCEOの窪田良氏がアメリカ航空宇宙局(NASA)より有人火星探査を含むディープスペースミッションの研究代表者に任命され,同社100%子会社の米・アキュセラ・インクが,Translational Research Institute for Space Health(TRISH)と小型OCT(光干渉断層計)開発受託契約を締結した(ニュースリリース)。
TRISHは,NASAとの共同契約を通じた提携により,NASAのディープスペースミッションにおける,宇宙飛行士の精神的,身体的健康を保護,維持するための革新的な技術に資金供与を行なうコンソーシアム。今回の契約に基づき,開発に要する費用はTRISHを通じてNASAより全額助成される。これにより,同社は有人火星探査に携行可能な超小型眼科診断装置の開発を今後NASAと共同で進めていく。
今回の共同開発の背景には,長期的な宇宙飛行を経験した宇宙飛行士の約63%が,視力障害や失明の恐れがある神経眼症候群を患っているという研究報告を契機に,宇宙飛行中にリアルタイムで網膜の状態を計測することへの需要の高まりがあった。
宇宙飛行に起因する神経眼症候群は,Spaceflight Associated Neuro-ocular Syndrome(SANS)といわれ,主な症状に,視神経が部分的に腫れる「視神経乳頭浮腫」や,眼球の後ろが平たくなる「眼球後部平坦化」,眼球後方で網膜の外側にある脈絡膜がしわしわになる「脈絡膜鄒壁」,眼底に白いシミができる「綿花状白斑」や視点の焦点を合わせる屈折に異常が見られるなどがある。
現在,SANSの検査では,網膜の断層を撮影するOCTが主に使われており,網膜の厚みや,網膜と視神経乳頭の断層画像を正確に計測し,ほかのテストと併用して神経眼症候群の診断や経過観察,治療に活用されている。
国際宇宙ステーション(ISS)で使われている市販のOCTは,ポータブルではなく,また,耐放射線性ではないため,月や火星などへの宇宙飛行時に使用するには適さないとされていた。また,神経眼症候群による解剖学的影響の診断や経過観察には必要のない機能が搭載されているなど,システムが複雑で機器自体も大型であることも課題となっている。
同社は,開発する小型OCTが,耐久性と耐放射線性を備え,ロケットに搭載するにあたり,小型軽量であることを含め,宇宙飛行中の宇宙飛行士の網膜の状態を撮影できる新たなOCT機器として,NASAでの活用が期待できるとしている。