日立製作所と理化学研究所(理研)は,再生医療用細胞の培養自動化をめざし,完全閉鎖系小型自動培養装置を用いて,ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮のシート状組織(RPE細胞シート)の自動培養に,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
従来,再生医療用の細胞や組織の製造は,細胞培養技術者の手技にて実施されてきたが,その品質が技術者のスキルに依存することや,限られた施設でしか培養できないため,普及に向けた量産化に限界があることが課題となっていた。日立ではこれらの課題を解決するため,高い無菌性を担保できる完全閉鎖系を技術的特長とした細胞製造の自動化技術を構築してきた。
今回,日立と理研は,角膜上皮や口腔粘膜上皮などの細胞シートの自動培養で実績のある日立の完全閉鎖系小型自動培養装置を用いて,理研で臨床研究での医療応用の実績があり,既に確立したRPE細胞シートの手技培養手順に従って完全閉鎖系での装置培養に適用するべく,送液や送気条件などについて検討を重ね,ヒトiPS細胞由来のRPE細胞シート培養の自動化に成功した。
さらに,RPE細胞シートの培養に適した専用の閉鎖系培養容器を作製することで,高い再現性を実現した。また,自動培養で作製したRPE細胞シートにおける細胞間接着マーカーや基底膜形成マーカーの発現を確認し,熟練技術者による手技培養と同レベルの品質であることを実証した。
今回の成果は,再生医療用の細胞が完全閉鎖系で自動培養可能であることを示し,この技術により細胞培養従事者の労力を大幅に低減できるだけでなく,医療用細胞の安定的な供給による量産化を可能にし,今後の再生医療をより身近な医療へと導く一歩だとしている。