東京大学は,目で見た画像に対する視覚野の神経細胞の活動を深層ニューラルネットワークモデルに写し取ることで,神経細胞の活動をコンピュータで詳細に解析する手法を開発した(ニュースリリース)。
近年,人工知能の分野で,深層ニューラルネットワークは大きな進展を遂げ,人間に近い性能で物体の認識を行なうことができるようになってきている。一方,人間とは明らかに異なった認識をしてしまう例も報告されている。
今後,人工知能がさまざまな分野,特に自動運転や医療診断など人命に関わる領域に活用されるにあたって,人間を含む動物がどのように目で見た視覚情報を処理しているのかを解明することは重要となる。
研究グループは今回,画像に対する神経細胞の活動を深層ニューラルネットワークに写し取るため,動物に見せた画像と同じ画像を深層ニューラルネットワークに入力し,その画像に対する神経細胞の活動を教師信号とすることによって,深層ニューラルネットワークを学習させた。
次に,このニューラルネットワークの出力をなるべく大きくするような画像をコンピュータ上で生成することによって,このニューラルネットに写し取った神経細胞の反応選択性を推定した。
この手法を検証するために,数百から数千枚の画像をマウスの目に提示しながら1次視覚野の神経細胞の活動を2光子カルシウムイメージング法により記録し,そのデータに対して,この手法を適用したところ,他の機械学習モデルよりも高い精度で,新規の画像に対する神経細胞の活動を予測することができた。
また,学習済みのネットワークの出力を最大化する画像を生成したところ,一次視覚野が特定の傾きの直線に良く反応する性質と一致する画像が生成され,さまざまな一次視覚野の性質を説明することができた。
研究グループは,今回開発した手法により,個々の神経細胞がどのような画像入力に対して最もよく反応するかを,詳細に深層ニューラルネットワーク上で解析することが可能になり,今後,視覚野の情報処理の原理を取り入れることで,より人間などの動物と似たように振る舞う人工知能ができる可能性があるとしている。