ImPACT(革新的研究開発推進プログラム)の一つ,『ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿命社会の実現』(ImPACTパワーレーザー)プログラムがこの3月末をもって5年間の研究開発を終える。これに先立ち,最終成果報告会がこの2月18日に大崎ブライトコアホール(東京・品川区)において開催された。
ImPACTパワーレーザープログラム(佐野雄二プログラム・マネージャー)は2014年にスタートした国家プロジェクトの一つで,このプログラムではX線自由電子レーザー(XFEL)とパルスレーザーの超小型化を目指し,いつでも・どこでも・誰でもが使えるレーザーの実現に向けて研究・開発を推進してきた。
このうち,超小型XFELの実現ではレーザー加速XFEL基盤技術を確立し,レーザー加速統合プラットフォームの構築を進めてきた。実験プラットフォームとしては播磨にある理化学研究所・Spring-8とSACLAに隣接して,チャープパルス増幅によるチタンサファイアレーザー加速の各ステージに合わせた独立した3本のビームラインを特長としたレーザー加速プラットフォーム『LAPLACIAN』が設置されている。
一方,超小型パルスレーザーの開発はハンドヘルド型とテーブルトップ型をアプローチに進め,ハンドヘルド型では分子科学研究所の平等拓範氏(理化学研究所兼務)のマイクロチップレーザーを基盤技術として,製品化を想定した研究・開発が行なわれてきた。
また,テーブルトップ型は浜松ホトニクスが中心となって開発が進められてきた。このプログラムの最大の特長は出口(実用化)を見据えていることにある。そのため,実際に製品化やシステム化を行なう企業,応用展開を図る企業や大学,研究機関が公募によって多く参画している。
製品化開発ではパナソニックPE,オプトクエスト,ニデックの3社が推進。このうち,オプトクエストはこの4月にも本格的にマイクロチップレーザーの販売を開始する予定という。ニデックは眼科手術用レーザーを開発してきたが,2020年度中にも製品化予定とし,2023年度中には眼科手術用レーザーを製品化するとしている。
超小型パルスレーザーでは平等氏の研究グループにおいて20mJという最高出力密度のサブナノ秒パルスレーザーの開発に成功している。実際に開発したレーザーを試用できる体制も整えており,浜松工業技術支援センターや浜松ホトニクスに試用プラットフォームが開設されている。
応用で注目したのは,理化学研究所・南出泰亜氏ら研究グループが研究開発を進めてきたTHz波による危険物・有害物の検査装置。超小型パルスレーザーを用いることにより,高強度のTHz波の発生を確認するとともに,検査装置では1秒以下という特定物質の検出も達成している。
また,溶接欠陥検査をリアルタイムで行なうレーザー超音波検査システムの開発も進められており,超小型パルスレーザーの実現によって送受信レーザーの小型化が達成され,これにより,可搬制限のあるロボットへの搭載も可能になると期待されている。
超小型パルスレーザーの開発はImPACT終了後,分子科学研究所に新設された社会連携研究部門に,産学官を交えた知識集約型のレーザー研究開発イノベーション拠点『小型集積レーザーコンソーシアム(TILA:Tiny Integrated Laser)』を設置し,企業との研究開発を通じて産業展開を図る計画だ。
この日の最終成果報告会は3部構成となっており,レーザー加速XFELプロジェクト,超小型パワーレーザーの開発・製品化と展開,超小型パワーレーザーの応用のそれぞれのテーマで合計11件の講演が行なわれたが,メインはパネルや動態デモなどの展示で,これまでの成果が見られた。
レーザー研究に関わるプロジェクトはNEDO(新エネルギー・産業技術総研究機構)の『高輝度・高効率次世代レーザー技術開発』に加え,JST(科学技術振興機構)の未来社会創造事業,光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)などのプロジェクトがスタートしている。また,政府は『ムーンショット型研究開発』に対して予算案を内示しており,日本のイノベーション創出に向けた研究開発を後押しする計画も発表している。