産業技術総合研究所(産総研)は,現在産業化が進められている魚類や菌類の抗凍結タンパク質(AFP)が,凍結物の品質や生命力を損なう「氷の再結晶化」を15~60mg/Lという極めて低濃度で阻止できることを見いだした(ニュースリリース)。
氷は無数の単結晶氷(氷核)で,それらが成長と融合を繰り返して時間と共に大きな塊になると「氷の再結晶化」が起こる。AFPにはこの現象を止める能力(Ice Recrystallization Inhibition, IRI活性)が認められていたが,その定量方法は確立されていなかった。
一般にAFPのIRI活性は重量濃度40%のスクロース水溶液に溶けた状態で調べられている。研究グループは,今回もこの水溶液をAFP試料の溶媒として用い,さまざまな濃度のAFP水溶液を光学顕微鏡のステージ上にセットした。-8℃で凍らせたAFP水溶液が無数の小さな氷核の集合物になることを確認後,その状態を約1時間保持して顕微鏡画像を撮影した。
その結果,今回測定したAFP試料では,約15~60mg/Lという非常に低いAFPの最小濃度(IRIendpoint)が見積もられた。細胞凍結保存液には緩衝液成分,塩,グリセロールなどが含まれ,これらにも弱いながら氷核の成長を抑制する効果があることが知られている。従って,AFPは実際の細胞凍結保存液ではIRIendpointよりさらに低い濃度でIRI効果を発揮すると考えられる。IRIendpointは,そのようなAFP凍結保存技術を開発する際の基準値となる。
研究グループは,氷の再結晶化を止める能力がAFP間で異なる理由を調べるため,赤,黄,緑に光る蛍光物質を付けた各AFPの濃度0.1mg/mL水溶液中に半球状に成形した直径約2cmの氷の単結晶を浸し,約2時間後に取り出した。これらに紫外光を照射して観察したところ,氷結晶半球の特定の箇所にだけ蛍光が観測された。
半球状の単結晶氷はさまざまな間隔で並んだ無数の水分子によって構成されている。個々のAFPは,その中の特定の水分子のセットを認識して結合するために,AFP間で異なる蛍光パターンが観測されると考えられた。より広い範囲に渡って蛍光パターンを示すAFPほどIRIendpointが小さいことから,より多様な氷結晶面に結合する能力がAFPのIRI活性の強さを決定すると考えられる。
研究グループは,今回の研究は,食品や薬の冷凍技術,フリーズドライ,細胞凍結保存技術などへの応用に期待できるとしている。