京都大学,米カリフォルニア大学,韓国高麗大学,同ソウル大学,日本大学は共同で,フェリ磁性合金ガドリニウム・鉄 ・コバルト(GdFeCo)と非磁性重金属プラチナ(Pt)から成る二層膜を用いて,スキルミオンホール効果がフェリ磁性体の角運動量補償温度において消失することを実証した(ニュースリリース)。
準粒子であるスキルミオンが磁性体中で観測され,注目を集めている。スキルミオンは磁気モーメントが捻じれてあたかも一つの渦のようになった構造を持ち,全体で一つの粒子のように振る舞う。スキルミオンは,直径が数10nmから1µm程度と非常に小さく,またその粒子性から磁性細線中の欠陥サイトを避けて進むことができるため,非常に低い電流密度で駆動する。
このため,レーストラック型の磁気記録素子(スキルミオンレーストラックメモリ)や論理回路などが考案され,超高密度,低消費電力の磁気メモリとして注目を集めている。スキルミオンレーストラックメモリとは,磁性体でできた細線(レーストラック)中のスキルミオンを,電流が起こすスピントルク効果によって駆動させ,情報の書き込み・読み出しを行なうもの。
しかしながら,スキルミオンをスピントルク効果で駆動する際に,スキルミオンの軌道が電流印加方向と垂直な方向に曲げられるスキルミオンホール効果が存在する。この効果のためにスキルミオンがレーストラックの端に到達して消滅してしまうという問題があった。この問題は,スキルミオンを利用した磁気メモリの実現に向けた大きな障害となっていた。
研究では,フェリ磁性合金ガドリニウム・鉄・コバルト(GdFeCo)層にスピントルク効果によりスキルミオンを駆動するためのプラチナ(Pt)層を接合した薄膜を用い,この薄膜に生成した円形磁区が電流によって拡大する様子を,磁気光学カー顕微鏡を用いて観察し,この測定結果を説明するため立てたモデルのシミュレーションを行なった。
これらの観測結果により,スキルミオンホール角がトポロジカル数だけでなく磁化が持つ角運動量にも依存すること,さらに角運動量補償温度においてスキルミオンホール効果が消失することを実証した。
これまでスキルミオンのデバイス応用における課題であったスキルミオンホール効果が無くなるので,この成果はスキルミオンを用いた次世代の磁気デバイスの開発につながるものだとしている。