日本電気は,放射線耐性の高い半導体チップ「NanoBridge-FPGA(NB-FPGA)」を開発し,宇宙空間での動作の信頼性に関する実証実験を実施する(ニュースリリース)。
ユーザーが電子回路を書き換え可能なFPGAは,電気信号を切り替えるためのトランジスタの素子サイズを微細化することで,チップに搭載する回路規模を大きくしているが,微細化するほどトランジスタのリーク(漏れ)電流が増え,それによる消費電力の増加が課題となっていた。
そこで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて同社は,信号切り替えに独自の金属原子移動型スイッチ「NanoBridge」を用いることで,省電力と小型化を実現したFPGA「NanoBridge-FPGA(NB-FPGA)」を開発した。
この製品は,日本独自の動作原理(原子スイッチ)に基づくFPGA。書き換え可能でありながら回路構成情報を保存するメモリが不要なため,放射線の影響で回路構成情報が書き換わってしまうソフトエラーの発生確率が極めて小さく,信頼性が高いほか,現在の最先端FPGAと比較して消費電力を10分の1,チップサイズを3分の1に抑えられる。
これらの特長を生かして,宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2019年1月18日にイプシロンロケット4号機で打ち上げた革新的衛星技術実証1号機の中の小型衛星「小型実証衛星1号機(RAPIS-1)」に,NB-FPGAを搭載し,JAXAと同社が共同で,放射線が非常に強い宇宙空間での動作・信頼性に関する実証実験を行なう。
今回,JAXAが開発したカメラモジュールにNB-FPGAを実装しRAPIS-1に搭載した。ソフトエラーの評価回路を一定期間動作させ,正常な動作完了を知らせる信号が評価期間中に継続出力されることを確認する。
また,衛星の太陽電池パネルの開閉前後の画像と衛星から地球を撮影した画像を,NB-FPGAに書き込まれた画像圧縮回路で圧縮し,その圧縮データが地上へ正常に送信されることを確認する。実証は打ち上げ後,1年間の中で行なう予定。
今後,同社はこの実証で得られた結果を検証し,NB-FPGAのさらなる性能向上を目指し,早期事業化を目指す。人工衛星機器に加え,高い信頼性が要求される自動車,医療分野への展開を進めるとともに,IoT機器の高度化および省エネルギー化などの応用を狙う。