東芝は,太陽光の吸収波長域を拡大することで全体の発電効率を上げるタンデム型太陽電池の実現に向けて,世界で初めて亜酸化銅(Cu2O)を用いたセルの透明化に成功した(ニュースリリース)。
政府が昨年7月に閣議決定した第5次エネルギー基本計画では,太陽光発電が2030年の主力電源の一つに定められたが,今後,限られた設置面積を有効利用し必要とされる電力を確保するためには,タンデム型太陽電池の必要性が増すと予想されている。
タンデム型太陽電池は,太陽光が直接入射する上層の透明なトップセルと,下層のボトムセルから構成され,結晶Si単体の太陽電池を越える高い発電効率が期待できる。
現在タンデム型としてはガリウムヒ素半導体などを用いた太陽電池が製品化されており,市販の結晶Si太陽電池と比べて1.5倍から2倍高い30%台の発電効率が報告されている。一方で,結晶Si単体の太陽電池と比べて製造コストが数百倍~数千倍と高いことが課題となっている。
Cu2Oは,地球上に豊富に存在する銅の酸化物で低コスト化が期待できるとともに,素材として高効率な発電が期待できる。また,結晶Siとは異なる波長域の光を吸収して発電するため結晶Siの発電が殆ど阻害されない特長がある。Cu2Oは酸化銅(CuO)や銅(Cu)といった不純物相が生成しやすく,かつ混ざり合いやすい性質がある。
今回,同社は,Cu2Oの薄膜を形成するプロセスにおいて,酸素の量を精密制御する独自の成膜法を適用し薄膜内部でのCuOやCuの発生を抑えることで,Cu2Oの透明化を実現した。これにより,波長が600nm以上の長波長光を約80%透過することができる。
さらに,同社はこの技術を用いて試作したプロトタイプのタンデム型太陽電池を使った実験において,ボトムセルに用いた結晶Si太陽電池が,単体で発電させた場合の約8割の高出力を維持して発電することを確認した。
同社は,今回の技術が蓄電池と組合せた自家発電システム,地域毎の分散電源や,これらを統合し電力需給バランスを調整するエネルギーアグリゲーションなどの新たなグリーンエネルギー事業に大きく役立つとし,3年後に透過型Cu2O太陽電池をトップセルに適用した,低コストなタンデム型太陽電池の完成を目指し,現在の結晶Si単体の太陽電池を大きく越える,効率30%台の実現に向けた研究開発を進めていくとしている。