東京大学らは,周期的に孔の空いたカーボンナノチューブ「周期孔ナノチューブpNT」の化学合成に成功した(ニュースリリース)。
CNTは,ダイヤモンド,非晶質,黒鉛,フラーレンに次ぐ5番目の炭素材料。グラフェンシートが直径数ナノメートルに丸まった極細チューブ状構造を持っている。新しい炭素材料として期待され,材料科学分野などで活用されはじめてきている。
しかし,CNTはその製造が物理的な手法を用いているために,長さや太さがふぞろいな混合物として提供されている。ごく最近になり「化学合成」という化学的な手法を用いることで,長さと太さが一義的に決まった筒状分子の製造が試みられ始めている。しかし化学合成では,長いナノチューブの製造は実現されていなかった。
今回研究グループは,長さと太さが,ともにおおよそ2nmのナノチューブpNTを誕生させた。芳香族カップリング反応を独自の工夫を凝らして活用することで,ベンゼンを40個,筒状に繋げることに成功した。化学反応で規則的に並べられた炭素の数は304個。
ベンゼン環とベンゼン環の間に,合計52本の化学結合をつくりだした。化学反応の順序や反応に用いる基質を工夫することで筒状構造を設計しているため,長さや太さの異なる周期孔ナノチューブの合成にも容易に発展可能。今回,合成されたpNT分子は,ベンゼン環に換算して7枚分の長さがあり,これまで合成された筒状分子のなかで世界最長のナノチューブ分子となるという。
さらに周期孔ナノチューブpNTの結晶を得ることにも成功した。結晶中でpNT分子は筒を揃えるように並び,「細孔結晶」と呼ばれる隙間の多い結晶となっており,その隙間の中には、炭素分子フラーレンC70を取り込めることを発見した。
今回,理論研究を実施し,この量子力学計算を活用した検討から,そもそも金属性であったCNTを,周期的な孔を持つナノチューブpNTに変換すると,半導体へと変換されることも明らかになった。
研究グループは,これまでのCNTは,長さや太さがふぞろいだったが,ナノチューブpNTは長さ・太さといった分子構造が明確で一義的な「分子性物質」であることから,今後,炭素材料の応用研究に貢献するものと期待している。