日立プラントサービスは,宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力して,人工衛星に搭載する高精度・大型の望遠鏡やカメラのレンズ・関連装置などの光学系の検査を,大気圧下で実施できる環境設備を開発した(ニュースリリース)。
近年,高精度かつ低コストの光学系を搭載する人工衛星の検査環境設備のニーズが高まっている。地球観測衛星や宇宙望遠鏡などに搭載されている高精度な光学系はnmレベルの検査・調整が必要となる。
これらの検査は,大気のゆらぎによる測定誤差を排除するために真空環境で行なうことが一般的で,従来は真空チャンバが利用されていた。しかし,真空チャンバは,検査の前後で真空排気,大気圧戻しの工程が必要なため,全体の検査期間が長くなり,運用コストも高くなる。
また,実験資材は真空環境に対応したものを使う必要があるが,一般的な測定機器は真空に対応しておらず,測定機器本体を真空チャンバの外に設置して,真空チャンバの観測窓を通して対象物を測定するため任意の場所の計測が難しい。さらに,真空に耐えうる大型の圧力容器の製作が難しく,測定対象物の大型化への対応が課題だった。
今回,精密温度制御に加え,低露点湿度制御や温度可変制御,気流整流化,断熱構造などの技術を組み合わせることで,測定誤差の要因となる温度・湿度・気流のゆらぎを極力抑制する技術を確立し,光学系の検査を高精度で行なえる環境設備を開発したという。
開発した設備は,超精密空調機,低露点除湿空調機および大型整流吹出口を実装した断熱構造の環境試験室から構成され,試験室内の空気温度が±0.01度,露点温度が-30度以下という高精度に制御された恒温・恒湿の検査空間を形成し,大気圧下でも真空環境と同様の検査を行なえる。
これにより,検査の前後で真空排気,大気圧戻しが不要で,真空チャンバと比較して検査期間の短縮と運用コストの低減を実現。また,吹出口を複数並べることで,最大約10m×10m規模の吹出口を有する大型環境設備を構築できるため,真空チャンバでは難しい大型の光学系の検査を行なうことも可能だとする。
この設備で人工衛星検査と同様の光学系の検査を行なった結果,従来の真空チャンバと同等の検査精度を確認した。また,直径6mの真空チャンバと同等規模の設備を製作・運用したと想定し試算した結果,検査期間を40%短縮し,運用コストを60%削減できる見通しが得られたという。
同社は今後,この設備の構築・提供サービスなどの実用化をめざすとともに,高度な検査・加工が必要とされる光学機器や精密機器などの分野においても今回の開発成果を活用していくとしている。