大阪大学と高輝度光科学研究センター(JASRI)は,反強磁性体と呼ばれる磁石につかない材料のスピン(原子レベルでのN極・S極の向き)が電圧によって動く過程を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
反強磁性体はハードディスクドライブの情報読み出し用素子や自動車の角速度(旋回速度)センサー,磁気ランダムアクセスメモリなどのスピンエレクトロニクスデバイスなどに利用されているが,これらのデバイスでは反強磁性体のスピンは止まったままで,その動きを利用することはできていない。
反強磁性体のスピンの動作速度は,強磁性体の磁化の動作速度より100倍から1000倍速く動くことが予測されている。しかし,反強磁性体は外部に磁束を出さないため,そのスピンをデバイス中で動かすことは非常に困難だった。
今回研究グループは,反強磁性体のスピンを動かす方法として,電気磁気効果を利用した。通常は,磁石のように磁界をかけると磁化・スピンの向きが磁界の方向に並ぶが,電気磁気効果は電界(電圧)をかけることにより上下のスピンの大きさが変化することで磁化が発生する効果で,クロム酸化物(Cr2O3)などの一部の材料で現れる。
クロム酸化物の電気磁気効果は,1950年代中ごろに発見されたが,「スピンがどのように動いているのか,どれくらいの速さで動くのか」は反強磁性体の微小な信号を検出することができなかったため,わからなかった。
研究グループは,「交換磁気異方性」と呼ばれる効果を利用することで,反強磁性体の弱い信号を強い信号の出る強磁性体に転写する技術を開発し,SPring-8の軟X線固体分光ビームラインに設置されている走査型軟X線磁気円二色性顕微鏡を用いて,反強磁性クロム酸化物に発生した磁化の動きを可視化した。
その結果,クロム酸化物の磁化は,反転過程で磁区と呼ばれる分域構造に分かれ,その境界領域である磁壁の移動が起こること,また,その移動が自動車と同じように,電圧の低いところではクリープのように動き,電圧によって加速できる(電圧が自動車のアクセルのような機能をする)ことを明らかにした。また,明らかにした反強磁性体の磁壁の動きが,従来の電流を使った手法ではなく電圧(電界)によって実現できた。
研究グループは今回の研究で,反強磁性体のスピンはこれまで制御不可能な機能だったが,電圧(電界)と磁界を上手く利用することで制御可能になったとし,これまでの磁気デバイスの動作速度を飛躍的に高速化できる超高速デバイスへの応用に期待できるとしている。