独マックス・プランク協会フリッツ・ハーバー研究所は、独自に開発した高精度の光励起・検出が可能な低温走査トンネル顕微鏡(STM)の先端計測技術を用いて,ナノスケールの光である局在表面プラズモンの励起を介した共鳴トンネル型電子輸送現象注の観測に成功した(ニュースリリース)。
可視光による効率的な電子輸送の制御は,再生可能エネルギーである太陽光の利用に欠かせないとされている。ナノスケールの光である局在表面プラズモンは光エネルギーの効率的な利用を可能にするものとして数多くの研究が行なわれているが,局在表面プラズモンの励起を介した電子輸送は,ナノスケールの超微小空間内で起こるため,従来の手法ではそのような現象を直接調べることはできなかった。
実験は10-8Pa以下の超高真空環境において,原子レベルで清浄化された銀単結晶表面とプラズモニックな銀および金の探針を用いたSTM接合で行なわれた。接合内にはポテンシャルによって閉じ込められた電子の離散的なエネルギー準位が存在している。ナノスケールの局所分光法である走査トンネル分光(STS)を使うとこれらのエネルギー準位を直接観測することができる。表面プラズモンの励起を介した電子の共鳴トンネル現象はSTSスペクトルに現れる共鳴準位のシフトとして明瞭に観測された。
また,STMのトンネル電子による励起を介したプラズモン発光スペクトルを同時に取得することで,観測された現象は自由空間を伝搬する光がSTM接合の局在表面プラズモン励起を介して微小空間に閉じ込められ,接合内の局所電場が著しく増強されることによって起きていることを実験的に証明した。さらに,STMの測定ステージにピエゾモーターによって駆動することができる高開口数の放物面鏡を備え付けることでSTM接合への精密な集光をこれまでにない精度で行なうことを可能とした。
今回発見した表面プラズモンの励起を介した電子輸送現象は,ナノ構造を持つオプトエレクトロニクスや,再生可能エネルギーの利用を目指した色素増感太陽電池,プラズモニック触媒などの素過程と関連する基礎的な物理現象。今後,研究グループは開発したSTMを,ナノスケールの光(局在表面プラズモン)と物質の相互作用を原子,分子スケールで直接調べられる新たな実験手法として活用することも期待されるとしている。