物質・材料研究機構(NIMS)は,直角や鋭角の経路でも電磁波が散乱を受けずに伝送される「蜂の巣状トポロジカルLC回路」の作製に成功した(ニュースリリース)。
ものの形状が変化しても,その変化に影響されない「トポロジカルな性質」を持つ物質の研究が盛んに行なわれている。もともと電子系で発見されたトポロジカルな性質だが,近年,光や電磁波にも拡張できることが明らかとなり,散乱に強い光・電磁導波路の開発に役立つと期待されている。
しかし,光や電磁波でトポロジカルな性質を実現するには,ジャイロ物質と呼ばれる特殊な物質に磁場を印加したり,複雑な構造が必要とされており,既存のエレクトロニクスやフォトニクスの技術と融合するために,単純な物質と構造でトポロジカルな性質を実現することが求められていた。
研究グループは,2015年にシリコン等誘電体の円柱を蜂の巣格子に組むことによって,光・電磁波のトポロジカルな性質を実現できることを示した。
今回,高周波の電磁波を伝送するマイクロストリップとよばれる平坦な回路において,線状金属箔が蜂の巣構造を持つように設計し,六員環をつくる金属箔と六員環同士を繋げる金属箔の線幅を異なるようにすれば,伝送される電磁波がトポロジカルな性質を持つことを理論的に見いだした。
さらに,実際にマイクロストリップを作製し,表面の電場を測定することで,マイクロストリップ内部で決まった方向の電磁エネルギー渦巻きを作りながら伝搬するという,トポロジカル電磁波の様子を詳細に観測することに成功した。
今回の研究によって,簡単な加工でトポロジカルな性質を持つ電磁波の伝送を実現できることが実証されたとする。トポロジカル電磁伝送は鋭角や直角の経路からも散乱を受けないため,コンパクトな電磁回路の設計が可能となり,デバイスの小型化・高集積化が期待できる。また,トポロジカル電磁モードが持つ渦巻きの方向と巻き数は,情報の担い手として高密度な情報伝達に利用できる。
これらの特性はいずれも,IoTや車の自動運転等に代表される高度情報化社会の実現に寄与するもの。エレクトロニクスに幅広く使われている高周波電磁導波路に応用することで,コンパクトな設計が実現し,携帯電話など様々な電子デバイスの小型化・高集積化に貢献できるとしている。