日本原子力研究開発機構(原研)は,高度情報科学技術研究開発機構(RIST)と連携し,福島県内の任意のエリアにおいて,放射線量(空間線量率)の詳細な3次元分布を計算可能とするシステム「3D-ADRES」を開発した(ニュースリリース)。
福島第一原子力発電所事故により,放射性セシウムが降着した市街地や森林では,放射性セシウムが発する放射線が構造物・樹木・土壌・斜面等により散乱され,放射線量は複雑な立体的分布を示す。しかし,そのような3次元分布を現地にて推定可能とするシステムはこれまでになく,その開発が望まれていた。
今回,研究グループが開発したシステム「3D Air Dose Rate Evaluation System」(3D-ADRES)は,人工衛星画像等を用いて複雑な市街地や森林をリアルにモデル化し,放射線量の詳細な3次元分布を初めて実際の市街地及び森林で推定可能とした。
このシステムの中核となるのは,①人工衛星画像等のリモートセンシング技術から得られる地理空間情報を活用し,地形及び構造物などをモデルとして再現する機能(一部,自動認識機能を用いて自動化している)②認識し再現された構造物等の表面や地表面等に放射線源を付与する機能,そして,①②の結果を基に,③設定した放射線源が発するγ線の輸送モンテカルロシミュレーションを実施する(原子力機構・基礎工学部門が開発したPHITSコードを利用する)機能の3つ。
このシステムを用い,帰還困難区域である福島県双葉郡大熊町及び富岡町から選んだ3地区を指定エリアとし,人工衛星画像から得られた数値標高モデル(DEM; Digital Elevation Model)・数値表層モデル(DSM; Digital Surface Model)・オルソ画像データを基に建物や樹木等をモデル化し,放射線源分布を適切に設定した。
その結果,任意のエリアの空間線量率分布が推定可能となるだけでなく,住民が活動・居住する生活空間において,そのエリアの空間線量率に寄与する放射線源が,どこにどれだけ存在しているかも推定可能となったという。
研究グループは今後,構造物認識機能や放射線源付与機能に人工知能技術を採用し,モデル化の自動認識処理を目指すことでより広域かつ系統的な計算を高速に実現させる他,人工衛星から得られる地理情報だけでなく,地上やドローン・航空機等の様々なリモートセンシング技術により得られる詳細な空間情報を活用し,より正確な推定システムへと発展させる予定としている。