京大ら,可視光下で物体表層の光の伝搬過程を可視化

京都大学と国立情報学研究所は共同で,通常のカメラを可視光下で用いて,物体表層における光の伝搬過程を可視化する手法を開発した(ニュースリリース)。

光の伝搬を画像としてとらえることができれば,光が豊かな情景を作り出すメカニズムを解析することができる。さらに,その伝搬する様子から,光が作用している物の形状や物理的特性などを推定することができ,視覚情報を用いてより精緻に現実世界を理解することに役立つ。

しかし,光が実際に伝搬する様を直接時間分解して撮像しようとすると,ピコ秒以下の時間分解能を有する特殊なカメラ(time-of-flight camera)を用いて繰り返し撮像するなどの工夫が必要となる。また,そのような手法は,シーン内での光の伝搬や物体間の光の相互作用(相互反射等)などの大局的な光の伝搬の様子を捉えることはできても,物体表層内などで繰り広げられる,よりミクロなスケールで光の伝搬を撮像することはできない。

これは,物体表層内において,物体表面から入った光が,物体表層をなす媒体に含まれる粒子等に繰り返しぶつかり,そのたびに吸収と散乱を繰り返すため。そして
再び表面から射出する光は色と方向性を持ち,その伝搬過程における散乱頻度が物体間の相互反射等とは桁違いの短い距離でおこる。そのため,直接時間分解する撮像方法では,圧倒的に時間分解能が不足する。そのため,物体表層における光の伝搬を撮像・可視化する有力な方法はなかった。

開発した手法の特徴は,従来法のように光の伝搬を時間分解するのではなく,物体表面の外観そのものを,新たに導出した光源の照射方法を用いて,観察する光の伝搬距離を(仮想的に)制御することによって,その伝搬過程を復元することにある。

具体的には,リングライト(円環状の光源)の半径を変えつつ物体表面を撮像し,それぞれの半径に対応する画像同士の差分を取ることにより,光の伝搬距離がそれらの半径の差に限定された画像列を生成できることを示した。

また,このようにして得られた画像列が,物体表層内で光が拡散・散乱しつつ伝搬する様子を捉えていることを,果物や人間の皮膚を含めた様々な自然物体を用いて実証した。さらに,これらの復元された伝搬画像から,物体表層内の異なる深さにおける色を特定できることも示した。

この成果は,簡便に実装できることから,実用的な物体表層の解析手段として役立つとしている。とりわけ,表層構造解析などを通した危険物等の非破壊検査のみならず,人間の皮膚や内臓表面などの状態や病変を容易に可視化して解析できるため,医療や美容に幅広く応用することが期待できるという。

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