横浜国立大学と神奈川県立産業技術総合研究所の研究グループは,光の干渉を利用した光コヒーレンストモグラフィー(OCT)を用いて,高温で焼結中のセラミックスの内部構造の変化を世界で初めて直接観察することに成功した(ニュースリリース)。
セラミックスは原料粉体から出発し,その粒子の集合状態は焼結体に至るまでに大きく変化する。特に材料内部の不均質性については,製品の品質にも深く関係することから,強く関心が持たれている。しかし,特にセラミックスを製造する際の高温下での焼結過程で内部の状態をリアルタイムで観察する手段はなかった。
OCTは光の干渉を利用した測定技術で,いくつかの方式が開発されているが,研究では高速画像取得に適しているSS(Swept Source)-OCT方式を採用した。OCTは干渉を起こした波長とその時の光の強度から,深さ方向の情報を得ることができる。また,断面構造を反映した画像も得られる。
研究では,試料を電気炉内に置き,試料を高温に加熱しながら測定を行なった。高温下では試料からの発光もあるが,波長も位相もレーザー光と違い一定ではないため,干渉を利用するOCTの観察結果に影響を与えない。
従来法であるX線CTは,物質のX線吸収係数の差を画像化するが,密度差の小さな物質を見分けることは困難で,また観察速度と分解能とがトレードオフの関係にあり,リアルタイム観察に不向き。超音波断層法は音響インピーダンスの差異を画像化するが,分解能は100μm程度で不均質な構造の検出に限界がある。
電子顕微鏡を利用し,FIB(収束イオンビーム装置)などと組み合わせて3次元構造を得る高分解能の観察手段もあるが,基本的には破壊試験になる。透過光を利用した光学顕微鏡法や共焦点レーザー顕微鏡法もあるが,試料を薄片化することが必要で,高温では試料からの発光により観察が大きく制限される。以上の点からも,OCTは内部構造の観察に対して最もバランスの取れた手法だという。
OCT法は3次元,高分解能,非破壊,リアルタイム性など従来手法にない特長がある。研究グループは今後,製造技術の立場からも要望の強い,深さ方向の観察可能領域の拡大を目指す。そのためには,より長波長,より高出力の波長可変レーザーが必要になるという。
また観察される画像をより鮮明にするために,画像信号処理の分野にも注力する。さらにこの技術はセラミックスだけでなく,プラスチック等にも適用できるため,さらなる用途拡大が期待されるとしている。