日本原子力研究開発機構(原研)と量子科学技術研究開発機構は,シンチレーション検出器の光出力が決まる仕組みを解明し,新たに陽子線・重粒子線に対しても発光量を正確に予測することを可能にした(ニュースリリース)。
放射線と反応して光を発するシンチレーション検出器は,高感度で低価格という優れた特性から,ガンマ線や中性子線の計測,放射線量の測定に広く使用されている。
しかし,陽子線・重粒子線などを測定する場合は,検出器へのエネルギー付与に対する発光量の理論的な関係が不確定なため,放射線量を正しく評価できない問題があり,発光メカニズムの解明とそれに基づく正確な発光量予測手法の開発が望まれてきた。
研究では,放射線が物質にエネルギーを付与する挙動を予測する計算手法に,付与されたエネルギーが分子間を移動する原理と,移動したエネルギーが特定の状態遷移により発光に関与することなく逸失する原理を組み合わせた数理モデルを開発し,ガンマ線やベータ線,アルファ線,陽子線・重粒子線などの様々な放射線によるシンチレーション検出器の発光量を再現することに成功した。
この数理モデルが従来の経験式のモデルと大きく異なるのは,発光量を予想するのにエネルギーの付与量だけでなく,エネルギーが付与される点の空間的な配置に着目した点。
エネルギーが一部の空間に集中して付与されると,発光する前に近接する分子間を移動し,一部の分子は発光できない励起状態に遷移する。こうしたエネルギーは熱に変換されて逸失してしまうため,エネルギーがまばらに付与された場合と比べて発光量が少なくなる。
結果として,エネルギーを一部の空間に集中して付与する重粒子線や低エネルギーの放射線は,付与したエネルギーの大きさに比べて発光量が少なくなる。
これにより,特に,従来不明であった陽子線・重粒子線によるシンチレーション検出器の発光が抑制される仕組みが明らかになり,正しい発光量の予測が可能となったという。
この成果により,加速器,宇宙,医療現場などの多様な環境におけるシンチレーション検出器による正確な放射線計測が可能となるとともに,新たな測定器の開発にも貢献することが期待できるとしている。