東芝と東北大学は,東芝および東芝欧州研究所傘下のケンブリッジ研究所が開発した高速量子暗号通信技術を用いて,既設の光ファイバー回線を利用し,一ヶ月以上にわたり平均10Mb/sを超える鍵配信速度での量子暗号通信に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
IoT時代の暗号通信技術である量子暗号通信では,光の粒子である「光子」1個に1ビットのデータを載せて送受信する。光子は盗聴があると状態が変化し,確実に盗聴を検知することが可能なため,量子暗号通信は,量子コンピューターを含むあらゆる盗聴・解読に対して安全性が保証される。そのため,秘匿性の高いデータを扱う通信アプリケーションへの導入が期待されている。
一方,量子暗号通信の実用化に向けては,既設の光ファイバー回線を用いたデータ通信アプリケーションに組み込んだシステムの開発と,そのシステムを長期間安定的に動作させる実証が必要だった。
研究グループは,東芝らが開発した高速量子暗号通信技術を,ゲノム解析データの通信を行なうアプリケーションに導入したシステムを開発し,フィールド実証実験を行なった。実証では,約7kmに敷設された光ファイバー専用回線を介した通信を行なった。また,配信された暗号鍵を管理する仕組みや,連携して動作するデータ暗号処理ソフトウェアなどを開発して組み込み,2拠点間で,ゲノム解析データを量子暗号通信技術によって暗号化し伝送するシステムを構築した。
このシステム上で,量子暗号鍵配信の速度を継続的に安定化させることに成功し,一ヶ月以上にわたる連続動作において平均10.2Mb/sの鍵配信速度を達成した。10Mb/sを超える速度での量子暗号鍵配信を,実環境で実証したのは世界で初だという。
さらに,上記の光ファイバー回線に無線センサーネットワークを導入して,年間を通じ温度変化・降雨・積雪・強風・地震などによって生じる敷設光ファイバーの振動等の通信外部環境変動を測定し,量子暗号通信性能との関係性について明らかにした。