九州大学の研究グループは,豪クイーンズランド大学と共同して最先端の電子顕微鏡解析研究に取り組み,銅(Cu)と錫(Sn)の化合物結晶(η-Cu6Sn5)にわずか5%添加されたニッケル(Ni)原子の位置を決定することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
鉛が有毒であるためにSnを主成分にした鉛を含まないハンダが世界的に広く使われるようになってきている。η-Cu6Sn5化合物はCuが主要元素の電子基板や配線とハンダとの溶融接合部で形成されるが,その結晶構造が約180℃を境に変化して体積も大きく変動するために,接合後の冷却や通電による加熱・冷却を繰り返すと接合部が破断する危険性があった。
最近,Niを数%ほど少量添加すると,結晶構造の変化が抑えられて接合部の安定性が大幅に改善されることがわかってきた。Niを含むη-Cu6Sn5化合物は,リチウムイオン電池の安定した信頼性の高い新たな電極材候補としても注目されているという。
研究では,電子線を原子より小さい領域に絞って化合物結晶に照射して発生してきた微弱な X線を高い感度で捉えるとともに,実験データに含まれるノイズを的確に除去する先端的な数理データ処理を駆使することで,Ni原子がCu2と呼ばれる結晶格子点に位置することを突き止めた。
このようにNi原子位置が実験で直接明らかにされたのは世界で初めてであり,この成果によってη-Cu6Sn5化合物結晶の安定化機構の原理解明が進み,さらに高性能な材料開発が前進することが期待できるという。
この研究で培った実験手法は他の様々な化合物結晶の構造解析にも広く応用できるといい,微量元素を含む化合物結晶の構造解析に新たな可能性を拓いたこの成果は,様々な研究分野でも大きなインパクトを与えるとしている。