千葉大学は,ハイパースペクトルカメラを使って,都市域上空および滑走路上空の大気を撮影し,人間活動や飛行機の離陸等に伴って発生する大気汚染物質である二酸化窒素の可視化に成功した(ニュースリリース)。
日本では環境省や自治体が,大気をサンプリングして1時間ごとに計測しているが,局所的な排出の影響が強いと広域での大気状況が直接的には把握できない。一方で,多くの気体分子は特定波長の光を吸収する性質を持ち,吸収強度の波長依存性(吸収スペクトル)を調べることで大気中にどのような分子がどれくらい含まれているかを知ることができる。
研究では,ハイパースペクトルカメラを用いて大気の吸収スペクトルを調べるリモートセンシング手法により,広域大気中のNO2の空間分布を可視化することに成功した。
研究で使用したハイパースペクトルカメラ(エバ・ジャパン製「SIS-H」)は可視光(400〜750nm)の波長領域で約1000バンドの波長識別能力を持っており,NO2の吸収スペクトルに見られる極めて細かい波長構造を分解することができる。
研究では,車や工場の排気等,人間活動によって発生したNO2が多く含まれる都市域の大気を調べるため,千葉大学の8階建てビルの屋上から地平線付近を360°見渡すパノラマ画像を取得した結果,交通量の多い高速道路等がある方向でNO2濃度が大きくなっていることが確認された。
また,頻繁に飛行機が離着陸する空港の滑走路上空を撮影した結果,飛行機の排気ガス中に含まれるNO2が移動する様子を20秒間隔で連続的に捉えることに成功した。
このような大気汚染物質を可視化する技術を応用すれば,広範囲の大気汚染状況の監視や汚染源の特定が容易になり,健康被害を防ぐために役立つととしている。