理化学研究所(理研)は,金属ナノ粒子の一つである「銅キューブ粒子」の成長に伴う内部構造とその変化を,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を光源として用いたX線回折イメージング(XDI)法によって明らかにした(ニュースリリース)。
サブマイクロメートルサイズのナノ粒子の物性は,イメージング技術,新しいフォトニック材料,医工学などの分野において技術革新をもたらす可能性があり,応用研究が進められている。応用研究では,ナノ粒子の形状・サイズ・内部構造を制御する必要があり,それらを観察することが重要となる。形状・サイズは,電子顕微鏡で観察できるが,内部構造を観察する測定手法はなかった。
今回,研究グループは,「SACLA」で得られる集光ミラーで強度が増強されたXFELパルスを用いるX線回折イメージング法(XDI)測定によって,成長過程にある多数の銅キューブ粒子の内部構造を観察した。
透過性が高く,かつ強度が極めて大きいXFELパルスを用いたXDI測定では,透過電子顕微鏡観察の適用範囲を超えた厚みを持つナノ粒子の内部構造を25nm分解能で観察できる。さらにSACLAでは,XFELパルスが30Hzで供給されるため,短時間で極めて多数の粒子の内部構造を観察できる。
集光XFELパルスは1ショットでも照射された物体を破壊するため,銅キューブ粒子を薄く散布した薄膜をXFELパルス照射位置に対して高速で並進させる(スキャンする)ことで,破壊されていない粒子の回折パターンを測定した。
この「XFEL-XDI法」により銅キューブ粒子1,637個の内部構造を可視化することに成功した。その結果,これまで一様だと考えられていた内部構造に大きな偏りがあることを見いだした。さらに,得られた多数の内部構造に対して,統計解析およびマニフォールド解析を行なうことで,粒子の成長過程に伴う内部構造の変化を明らかにした。
この研究成果は,液相合成法による金属ナノ粒子の成長メカニズムに新しい知見を提供するだけでなく,これまで密度分布は一様であるとの前提で進められてきた金属ナノ粒子の物性研究の考え方に大きな転換を迫るものだという。今後,この手法がナノ物理の重要な柱の一つとなるだけでなく,細胞の内部構造観察などの生物学的研究にも裾野を広げていくと考えられるとしている。