東京大学と物質・材料研究機構は,世界で最も低ノイズの有機トランジスタの作製に成功した(ニュースリリース)。
有機トランジスタには,定常状態においても「わずかな電流の揺らぎ=ノイズ」が必ず存在し,このノイズは信頼性や安定性といった動作性能を低下させる大敵となる。今回研究グループは,有機トランジスタにおけるノイズの原因解明とその抑制に取り組んだ。
研究グループはまず,ノイズの精密測定とその原因となる電荷のトラップ密度の精密評価を可能にする技術を開発した。そして,有機トランジスタのトラップ密度を丹念に調べた。その結果,有機トランジスタを構成する有機半導体とゲート絶縁体の界面に存在するわずかなポテンシャルの揺らぎに起因して,有機半導体にわずかに存在するエネルギー障壁の浅いトラップでさえもノイズの原因になることを突き止めた。
そこで,トラップ抑制のため界面に配置した分子膜の品質を上げ,界面を制御してトラップに捕獲されない電荷伝導機構であるバンド伝導性を高めることで,ノイズを低減し,他の有機トランジスタと比較してノイズレベルが圧倒的に低い有機トランジスタの作製に成功した。
さらに,印刷で作製できる酸化物半導体トランジスタのノイズレベルも並行して評価した結果,今回得られた有機トランジスタのノイズレベルは同程度の移動度(5cm2V-1s-1)を有するIndium Zinc Oxideを凌駕するレベルであることも分かった。
IoT社会においては膨大な数のセンサーデバイスが必要になると考えられている。センサーデバイスに必要不可欠なトランジスタは,印刷で作製できる有機トランジスタに置き換えることで低コスト化が可能。この研究で得られた低ノイズの有機トランジスタは,IoT技術を支える安価でしかも高感度なセンサーデバイスの実現に大きく貢献するものだとしている。