早大ら,埋込型がん治療発光デバイスの生体実験に成功

早稲田大学と防衛医科大学校は共同で,生体組織表面にシールのように貼り付けられる体内埋め込み型の発光デバイスを開発し,このデバイスを担がんモデルマウスの体内に移植することで光がん治療に応用し,腫瘍を消失させることに成功した(ニュースリリース)。

光線力学療法(PDT)は,光増感剤が集まった病巣へ光を照射することにより発生する活性酸素でがんの細胞死を誘導する。2000年に入ってから,出力の非常に弱い光源(従来の1/1000)を用いた「メトロノミックPDT(mPDT)」法が提唱され,従来のPDT法では難しかった体内深部の臓器にできたがん(肝がん,膵がんなど)を治療できるとして期待されている。

しかし,光強度が弱いmPDTは,光源の位置が少しでもずれると腫瘍への光照射が不十分となり効果が得られない。そのため,生体内の臓器や組織上で安定に固定でき,長時間安定的に光照射できる体内埋め込み型の発光デバイスの開発が望まれていた。

研究では,膜厚約600nmのシリコーンゴム製ナノ薄膜の表面に生体模倣型接着分子であるポリドーパミン(PDA)を修飾することで生体組織への接着性が約25倍向上することを発見し,生体内においても小型の電子デバイスを縫合なしに2週間以上安定に生体組織上で固定することに成功。この伸縮性と接着性に優れたナノ薄膜を用いて近距離無線通信発光式LEDチップ(赤・緑)を生体内の組織や臓器表面上で固定することで,mPDT光源の「ずれ」の問題を解決し,完全埋め込み型のmPDTシステムを構築した。

研究では,背中の皮内に腫瘍細胞を移植した担がんモデルマウスの皮下に無線発光デバイスを貼り付け,固定した。そして,光増感剤であるフォトフリンをマウスに静注注射した後,マウス飼育箱の下に設置した無線給電用アンテナからLEDに電力を送り,埋植したデバイスを10日間連続的に点灯させた。その結果,光照射により治療された腫瘍が顕著に縮退し,緑色光を使用することで腫瘍を完全に消失させることにも成功した。

光源を腫瘍の間近に設置できるので,従来のPDTで用いられているレーザー光の1000分の1のLEDでも顕著な腫瘍縮退効果が得られ,さらに,これまで組織透過性から近赤外光しか使われてこなかったPDTを埋め込み型デバイスにすることで,緑色光でも治療効率の高いPDTを世界に先駆けて実現した。

開発した体内埋め込み型の発光デバイスは,移植する際に縫合を必要としないため,脳や肝臓,膵臓のような重要な血管や神経を巻き込む組織,構造的に脆弱な組織にも適用できる。さらに,適用が困難とされていた深部臓器がんへPDTの適用範囲を拡げることができる。無線給電式・埋め込み型光がん治療の臨床応用が実現すれば,負担が少ない次世代型がん治療法として期待できるとしている。

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