京大ら,「仮説フリー」を実現する光遺伝学的操作法を開発


京都大学,明治大学,中部大学は共同で,神経ネットワークの機能を高速に解明するための新しい光遺伝学的操作法「機能的セロミクス」の開発に成功した(ニュースリリース)。

神経科学におけるひとつの目的として,脳が感覚情報を統合して適切な行動を出力するプロセスを理解することがある。しかしながら,神経ネットワークは非常に複雑であり,その計算プロセスを理解することは簡単ではない。

研究グループは,「機能的セロミクス」(functional cell-omics),すなわち,複雑な神経ネットワークにおいて,ある任意のニューロンが,ある特定の行動に対してどのような機能を持っているかを網羅的かつ高速に探索することのできる新しい方法論を構築した。

従来のオプトジェネティクスでは,光作動性チャネルであるオプシンをどのニューロンに発現させるかをあらかじめ考え,適切なプロモーターを選択する必要があった。そのためこのアプローチは,既に存在する仮説を精密に検証するには効果的だが,まったく新しい発見を生むことは困難だった。

研究では,従来のオプトジェネティクスの発想を転換し,仮説がなくても(仮説フリー)神経ネットワークを操作できる方法論を構築しようと考えた。すなわち,ひとつひとつのニューロンにおいてオプシンが発現するかどうかを確率的に決定するシステムを開発し,さまざまなパターンでオプシンが標識された線虫ライブラリを取得する。

この確率的ラベリングを実現するために,Cre-loxシステムを基盤とするBrainbowテクノロジーを採用した。Brainbowテクノロジーによりオプシンでランダムに標識された線虫ライブラリが得られれば,そのライブラリに対して光照射下で行動実験を行なうことで,今まで知られていなかったような神経ネットワークと行動の連携をハイスループットに発見できる。このアプローチは,まず異常な行動を示す個体を発見し,後からどのニューロンが影響していたのかを同定できるため,「仮説フリー」といえるとする。

研究グループは,この方法を線虫の神経ネットワークに適用し,線虫の産卵行動に影響する神経を迅速に同定することに成功した。この研究成果は,複雑な神経ネットワークがどのように感覚情報を統合して出力するのかという,神経ネットワーク計算モデルを構築する上で,非常に重要な知見を提供する成果だとしている。

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