名大ら,放射線照射による水の発光現象の機序を解明

名古屋大学,兵庫県立粒子線医療センター,フィンランド タンペレ工科大学,量子科学技術研究開発機構は共同で,放射線照射による水の発光現象の発光機序を明らかにした(ニュースリリース)。

研究グループは,放射線が水中で微弱光を発することを発見していたが,これは全く新しい現象であり,その発光機序は不明だった。今回,水面近くの浅い部分にチェレンコフ光が生じるエネルギーの炭素線を水に照射しながら水の発光画像のスペクトルを計測することで,水の発光機序を明らかにした。

得られた水の発光画像から発光波長分布を調べたところ,粒子線が物質中で止まる直前で大きな線量を物質に与えるブラッグピークの発光が,チェレンコフ光のもとになっている発光であると考えると矛盾なく説明できた。これにより,水の発光は,チェレンコフ光のもとになっている発光が,粒子線治療装置などからの高い線量の放射線を照射することで,はじめて観察されるようになったものであることが明らかになった。

しかし,チェレンコフ光以下のエネルギーで生じる水の発光は,新しく発見された現象であることから,コンピュータシミュレーションには未だ組み込まれていない。そのため,これまでのコンピュータシミュレーションで計算を行なった炭素線を水に照射したときの発光画像と,実験で得られた発光画像の発光分布は全く異なる。その結果から,放射線照射による水の発光は線量分布測定には使えないと判断し,欧米の研究者らからは間違った結論の論文が発表されていた。

この課題を解決するために,研究グループでは,現状のコンピュータシミュレーションソフト(GEANT4)に,水の発光現象を追加する修正を行ない,新たに計算を行なった。新しく水の発光現象のプロセスを追加して計算を行なった発光画像と,実験で得られた発光画像を比較したところ,修正を行なった新しいコンピュータシミュレーションでは実験データと一致する発光分布が得られるようになった。

今回得られた研究成果により,放射線照射による水の発光機序が明らかになり,さらにコンピュータシミュレーションを用いて水の発光を正しく計算できるようになった。実験的にも理論的にも放射線照射による水の発光現象が解明され,さらにコンピュータシミュレーションでも正確に計算できるようになったことから,この現象を利用した応用研究を飛躍的に発展させることが可能になるとしている。

今後,産業界とさらに協力を深め,放射線照射による水の発光現象を用いた日本発,世界初の高精度線量分布測定装置などの画期的な製品開発を進めていくとしている。

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