名古屋大学の研究グループは,多数の太陽電池用シリコンウエハの蛍光画像を収集し,得られた多数の画像に情報処理技術を適用することで,従来は困難であった太陽電池用シリコンインゴット中の結晶欠陥の3次元分布の可視化に成功した(ニュースリリース)。
多結晶シリコンの品質が単結晶に劣る原因は,シリコンインゴットの製造時に発生してしまう結晶欠陥にある。よって,結晶欠陥の少ないシリコンインゴットの製造技術が求められている。
結晶欠陥の少ないシリコンインゴットの製造技術を開発するには,結晶欠陥の発生メカニズムの理解が不可欠だが,これまで,シリコンインゴット中で結晶欠陥がどのように分布しているかを調べる方法さえなかった。そのため,結晶欠陥の発生メカニズムが解明できず,高品質なシリコンインゴット製造技術の開発指針も不明確だった。
そこで今回,シリコンインゴット中の結晶欠陥の3次元分布の可視化に挑戦した。具体的には,シリコンインゴットをスライスして作製した多数の実用サイズの多結晶シリコンウエハに,レーザー光を照射し,蛍光と反射光が混ざった画像を特殊なCCDカメラで撮影した。結晶欠陥の存在を蛍光強度の低下として検出し,さらに,多結晶の複雑な組織情報を反射光強度の差として検出しようと試みた。
得られた画像の生データは,ウエハ表面のスライス痕や,レーザー光の散乱による干渉縞などの影響により,結晶欠陥による蛍光強度の低下を視認することは困難だった。そこで,フーリエ変換および逆フーリエ変換によるスライス痕の除去,色濃度の正規化,平滑化およびアンシャープマスク処理などの情報処理技術を適用することで,多結晶ウエハの複雑な組織や結晶欠陥領域が明確になった。
さらに,輝度の閾値処理により結晶欠陥を抽出し,画像の連続性に基づき個々の結晶欠陥領域をラベリング処理して,個別の結晶欠陥領域を追跡することも可能とした。なお,この測定の空間分解能は,約0.3mmであり,可視化された結晶欠陥のサイズはミリメートル程度のもの。これらの成果は,結晶欠陥の発生・消滅メカニズムの解明の大きな手がかりになるという。
研究グループでは,機械学習も活用して結晶欠陥の発生点の特徴を明確にし,インゴット製造条件の情報を連携させて解析することで,結晶欠陥の発生・消滅メカニズムの解明を進める。今後,民間企業との共同研究により,太陽電池用高品質シリコンインゴットの新規製造技術の開発を実施することも計画している。