千葉大学の研究グループは,励起子絶縁体候補物質Ta2NiSe5の光学伝導度スペクトルを,類似の構造を有する単純な半導体物質Ta2NiS5のそれと比較・解析し,前者が新しいタイプの強結合型の励起子絶縁体状態にあることを明らかにした(ニュースリリース)。
従来の励起子凝縮の理論によると,正常相が価電子帯と伝導帯のバンドが重なった半金属の場合,励起子凝縮は,超伝導におけるクーパー対凝縮と類似のバーディーン・クーパー・シュリーファー (BCS) 型となり,正常相が価電子帯と伝導帯の間にギャップが開いた半導体の場合,励起子凝縮は,高温から発生する励起子対のボース・アインシュタイン凝縮(BEC)として記述されるとされている。
研究では,半世紀に渡り信じられてきたこの概念を覆し,現実の物質Ta2NiSe5では,仮想的な正常相が半金属であっても,強い電子・正孔間クーロン引力によりBEC型の励起子凝縮が起こっていること,すなわちこの系の基底状態は,これまで知られていない新しいタイプの絶縁体状態にあることを,実験で観測される光学伝導度スペクトルの解析に基づいて明らかにした。
従ってこの物質は,電子・正孔間の強い引力相互作用で,転移温度より高温でも電子・正孔ペア(プリフォームド励起子)が形成され絶縁体的に振舞う,新しいタイプの絶縁体であり,電子間の強い斥力相互作用で転移温度より高温でも絶縁体的に振舞ういわゆるモット絶縁体と対比されるべき,物性物理学の新概念を提供するとしている。
またこの新規絶縁体状態は,特異な光学応答を有し,新規機能性材料として工学的応用も期待されるという。