東工大ら,窒化銅で高性能な窒化物半導体を開発

東京工業大学,物質・材料研究機構と共同で,希少元素を含まない窒化銅(Cu3N)を使って,p型とn型の両方で高い伝導キャリア移動度を示す半導体を開発した(ニュースリリース)。

薄膜技術を用いた太陽電池はヘテロ接合が使われており,変換効率低下の要因となる接合界面を最適化することが必要となっている。高性能な結晶シリコン(Si)やGaAs太陽電池のように,同一材料のp型とn型の半導体でホモ接合を造ることができれば,高い変換効率を示す太陽電池の作製が容易になると期待されている。

窒化銅(Cu3N)はありふれた元素のみで構成される間接遷移型半導体であり,太陽光スペクトルに適したバンドギャップ1.0eVと高い光吸収係数をもつことから,新しい薄膜太陽電池材料として注目されている。しかし窒化銅は熱力学的に準安定な物質であり,高品質な結晶の作製が難しく,半導体としての特性は明らかになっていなかった。

研究グループは,薄膜を安価・大面積に形成できる窒化物合成法の考案と理論計算を用いたキャリアドーピングの設計,原子分解能の電子顕微鏡での観察,放射光による電子状態解析により,高性能なp型およびn型伝導性の窒化銅半導体の開発に成功した。

開発した直接窒化法により,従来困難であった高品質な窒化銅薄膜の作製が可能になった。得られた純粋な窒化銅薄膜はn型半導体であり,この結果は第一原理計算による予測と一致した。電子濃度は1015~1016cm-3に抑制でき,電子移動度が180~200cm2/Vsまで向上し、高性能な半導体となった。

次にp型半導体を作製するために,アクセプターとなり得るドーパントの候補を第一原理計算により探索した。格子の中心に大きな空隙を持つ窒化銅の特徴的な結晶構造に着目し,ドーパントの候補をスクリーニングした結果,フッ素イオン(F)の挿入が有効であると分かった。

この理論予測を踏まえて,酸化性ガスである三フッ化窒素(NF3)を用いて直接窒化法によってフッ素を添加した窒化銅を作製した。

そして,電子線エネルギー損失分光を使った走査透過型電子顕微鏡で試料を直接観察したところ,フッ素が理論予測通りに格子中心の空隙に存在していることを確認した。また硬X線光電子分光による電子状態解析とキャリア輸送特性の評価から,フッ素を添加した窒化銅はp型半導体であることが判明した。

正孔濃度は1016~1017cm-3であり,正孔移動度は50~80cm2/Vsと代表的な窒化物半導体である窒化ガリウムより高い値となった。アンモニアと酸化性ガスを使ったこの合成法は,低コスト・大面積化に適していることから,窒化銅のpnホモ接合を使った安価な薄膜太陽電池への応用が期待できるとしている。

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