東北大学,メルビル(ブリヂストン,日本電子)と共同で,nmの分解能で物質の構造を観察することが可能な透過電子顕微鏡(TEM)内で,ソフトマテリアル(高分子ナノ複合材料)を大変形(最大約40倍延伸可能)させながらナノスケールでの3次元構造変化を同視野で追跡できるTEM用試料ホルダーを開発した(ニュースリリース)。さらに,この新型ホルダーを用いてタイヤのトレッドゴムモデル材料を300%以上延伸した状態で3次元観察することに成功した。
金属材料では,引張りホルダーを用いた電子顕微鏡内での「その場引張り観察」 がすでに実現されている。しかし,試料の破壊までに観察されるひずみが,金属材料では数%から数十%程度であるのに対して,ソフトマテリアルでは数百%と10倍以上大きいことから,既存のシステムをそのままソフトマテリアル に適用することは不可能だった。
さらに,従来の延伸ホルダーは,強固で厚みのあるホルダーフレームを必要とするが,この厚みが原因で,延伸ホルダーを TEM 内で自由に傾斜させることが難しく,結果的に3次元画像の取得が困難だった。そこで,研究グループは共同で,TEM内でソフトマテリアルを大きく変形させることが可能で,かつ3次元像の取得が可能な試料ホルダーを開発し,ソフトマテリアルの大変形および3次元観察に成功した。
ソフトマテリアルは一般的に電子線を照射すると架橋(硬化)が進行することが知られている。これを回避するために,高感度CMOSカメラを搭載した電子顕微鏡を用いて最適な露光条件を探した上で,シリカナノ粒子を分散したイソプレンゴムを試料として,このホルダーを用いて延伸と撮像を繰り返した。その結果,試料に200%以上(元の試料長さを基準にすると3倍以上)のひずみを加えることに成功し,大変形下での連続TEM観察が可能であることを実証した。
この研究によってこれまで困難であった電子顕微鏡内でのソフトマテリアルの同視野延伸観察が可能となり,ナノスケールでの変形や破壊メカニズムの解明に貢献できるとしている。また,延伸途中の3次元像から得た知見や情報を有限要素法などの計算機シミュレーションにフィードバックすることで,より正確な材料の性能予測がに期待がかかる。このような基盤技術の蓄積により,将来的に材料開発のサイクルを加速することが可能になるとしている。