日本原子力研究開発機構(原研)と大阪大学の研究グループは,レーザーコーティング加工時に生じる固体金属の溶融・凝固過程を汎用エンジニアリングワークステーションにより評価可能な計算科学シミュレーションコード「SPLICE」を世界に先駆けて開発した(ニュースリリース)。
レーザーコーティング加工は,基板上にコーティング粉末を噴射すると同時にレーザー光を照射し,高品質なコーティング膜を付与する技術。この加工技術は金属基板に異なる金属膜を薄くコーティングすることで異なる機械的性質を付与できる。
しかしながら,要求仕様を満足するコーティング膜を付与するためには,コーティング粉末の供給量やレーザー光の出力などを,基板材料とコーティング粉末材料の組合せに応じて適切化することが求められる。今回研究グループは,レーザーコーティング技術が誰でもすぐに取り扱えるようにするために,計算科学的手法を考案した。
研究では,計算精度を確保しつつも計算負荷を可能な限り低減し,汎用エンジニアリングワークステーションでも数値解析を可能にする事を第一に考えた。そのため,ミクロ挙動とマクロ挙動を多階層スケールモデルにより接続し,気相・液相・固相を一流体モデルにより定式化した非圧縮性粘性流モデルを基礎式に採用した。
加えて,レーザー加工時に現れる核となる物理現象,例えばレーザー光-物質相互作用,半溶融帯を介した溶融金属-固体材料間の熱的機械的相互作用,溶融・凝固相変化過程などの複合物理過程を取扱うために必要な様々な物理モデルを導入した。
開発した「SPLICE」はこのコーティング膜厚,溶込み深さなどの要求仕様を満足するレーザー照射条件などの施工前評価を実測では数ヶ月要していたのに対し,数週間に短縮することができた。「SPLICE」の根幹を成す固体金属の溶融・凝固過程の評価性能は,SPring-8からの高輝度放射光X線を用いたイメージング法などにより,その妥当性を確認しているという。
研究グループは今後,市場展開が計画されているレーザーコーティング装置の産業界での利用促進を目指し,「SPLICE」コードの外部利用を積極的に進める予定。またこの成果での条件事前評価に係る考え方の一部は,平成30年度より新たに始まるレーザー溶断に係る研究開発「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」事業でも活用するとしている。