沖縄科学技術大学院大学(OIST)は,磁石の量子特性についての抽象的な理論を,新たな種類の光に関する検証可能な仮説とすることに成功した(ニュースリリース)。
物理学者たちが探求する創発という現象は,大きな粒子群の中の各粒子による予測しない動きの可能性を示し,それにより構築される新たな物理の法則や従来の法則に対する新たな見方を提起するもの。そして,問疑問のひとつとして「創発的光というものは存在するのか」が問われて来た。
研究グループは,スピンアイスに焦点を当てている。スピンアイスとは従来の磁気的秩序から完全に脱却したもので、量子物理学の世界に新たな扉を開いた。例えば一般的な磁石が金属物などに「張り付く」には,まず磁石内の磁気原子が小さな磁場を形成し,それらが共働することでより大きな磁場が作られる。また,磁気原子による小さな磁場がそれぞれ,同じ方向を向くように整列していることで磁力が成り立っている。
一方,スピンアイスは磁気原子が整列しないにも関わらず,共同作用することにより原子レベルで変動するような磁場が形成される。最近になって研究者たちは,低温での量子効果によりスピンアイスに創発的な電場を導入することが可能だと気づいた。その結果,創発的な電場と磁場が結合して磁気励起が起こり,それらが光の光子と全く同じように振る舞うことがわかった。
しかし,光のように振る舞ってもそれを肉眼で見ることはできない。2012年,研究グループは結晶内の磁性原子から中性子を跳ね返すことで,量子スピンアイス中の光を検知する方法を提起した。結晶がどのように中性子のエネルギーを吸収し,量子スピンアイスにおける創発的電気力学の存在を示すかという特徴的な痕跡を予測した。
今回,研究グループは,別に開発された中性子スペクトロメーターを使用し,プラセオジム・ハフネイト(Pr2Hf2O7)と呼ばれる物質でこの痕跡の観察に成功した。実験は,不純物や欠陥のない結晶を用いて,50ミリケルビンの低温で実験で行なわれ,異なる種類の中性子を選択的に反射させることに成功した。
ILLのチョッパー分光器から得られた,散乱した中性子のマッピングを通して散乱した粒子の偏光を測定することが可能となり,それらの粒子から生じたエネルギーの痕跡をマッピングすることに成功した。
結果として,研究グループの理論は,実験で得られたエネルギー図と類似していた。この中性子反射を画像化したエネルギー図には,量子スピンアイスの特徴となる,いわゆる「ピンチポイント」(蝶ネクタイの様に中心がくびれる構造)が見られた。そして,スピンアイスが低温で走査された際には創発的光の出現を示唆するかのように,これらのピンチポイントは消えたという。
また,研究グループは,実験データの分析により創発的光の速度を測定した。速度は控えめな秒速3.6mだった。研究グループは,量子力学を用いずにこれらの結果を説明する方法は知られておらず,創発的光の存在を示したのではないかとしている。