大阪市立大学の研究グループは,アンドンクラゲ(箱クラゲの一種)の目ではたらく光受容タンパク質の可視光をキャッチするしくみは,脊椎動物の光受容タンパク質のものと似ており,収斂進化(別の道筋を通って似た形質となった進化)によって獲得されたことを明らかにした(ニュースリリース)。
箱クラゲは発達した目を持つ最も下等な動物で,その目はレンズを持ち,小さいながら脊椎動物の目とよく似ている。これまでの研究から,箱クラゲと脊椎動物のレンズ眼がそっくりなのは収斂進化の結果と考えられている。
今回,2008年に同研究グループが同定したアンドンクラゲの光受容タンパク質について,可視光をキャッチするために重要な「対イオン」と呼ばれるアミノ酸残基を,変異体を作製し,培養細胞を用いて詳しく調べた。
その結果,アンドンクラゲの光受容タンパク質の対イオンの位置は,他の無脊椎動物の光受容タンパク質とは異なっていたが,脊椎動物の目の光受容タンパク質のものとは立体構造においては似た位置であることを見出した。
進化における対イオンの場所の変化は光受容タンパク質の機能的な進化と深い関係があることが既に明らかになっているので,対イオンという僅か1つのアミノ酸の進化における位置的変化が,光受容タンパク質の収斂進化のみならず,目の形の収斂進化をも促した可能性が考えられ,今後の解明が期待される。
また,分子進化と形態進化の接点を解明することは,進化学の大きな課題の1つであり,研究において見出した,「目の光受容タンパク質分子の収斂進化がレンズ眼という光受容器官の形態の収斂進化と関係する可能性」は,この問題を解く上で重要な知見だという。
近年,遺伝子組み換え技術と光受容タンパク質を利用した新しい技術である光遺伝学が注目されているが,光遺伝学では,実験動物の狙った細胞に光受容タンパク質を持たせておき,光を当てることで,生きた動物の中で狙った細胞の活動を制御できる。
これにより,特定の神経細胞などの機能を動物の行動と結びつけて明らかにすることが可能となることから,光遺伝学は特に脳科学や神経科学の分野で重要な技術となっている。
研究グループは以前,アンドンクラゲの光受容タンパク質は哺乳類のホルモン受容体などと類似した情報伝達経路を使って細胞応答することを見出しており,今回可視光をキャッチするしくみが明らかになったことで,アンドンクラゲの光受容タンパク質を利用したさまざまな波長の光に反応する光遺伝学ツールの開発が可能となるとしている。