NICTら,光子と相互作用した人工原子の巨大光シフトを生成

情報通信研究機構(NICT),日本電信電話(NTT),カタール環境エネルギー研究所(QEERI),東京医科歯科大学,早稲田大学は共同して,光子と相互作用した人工原子の極めて大きなエネルギー変化(光シフト)の生成と観測に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

これまで,物質と光の相互作用が極端に強い領域は,適切な実験手段がなく謎に包まれていた。この未解明領域で生じる新現象を見つけ理解することを目的に始まったこの研究では,共振回路中の電磁場と非常に強く相互作用できる超伝導人工原子を研究対象にしてきた。2016年には,物質と光の相互作用が非常に強い新たな領域(深強結合領域)を実現し,光子と人工原子から成る分子のように安定な状態が存在することを世界で初めて明らかにした。

深強結合領域のように,電磁場(光)との相互作用が非常に強い場合に,光子の存在が人工原子のエネルギー準位に及ぼす変化: 光シフト(Lambシフト,Starkシフト)がどれほど大きいかに関し,理論的な研究は以前から知られていたが,系統的な実験研究は今までなかった。

今回,研究グループは超伝導回路を使って実験を行なった。微細加工技術を用いて作製された超伝導人工原子は,原子と同等の量子的性質を持つ。また,超伝導共振回路に光子を閉じ込める。

観測できる状態やエネルギーの範囲を広げるため,新たに,二重共鳴分光法を用いて実験を行なったところ,これまでに人工原子で知られていたシフト量のおよそ100倍の巨大な光シフト(Lambシフト,Starkシフト)の観測に成功した。

共振回路中の真空場との相互作用によって生じるLambシフトは,水素原子の2S1/2準位と2P1/2準位との微細なエネルギー差として発見され,その後,量子電磁力学に飛躍的な発展をもたらし,精緻なエレクトロニクス技術の礎となった。今回,深強結合領域において観測されたLambシフトの大きさは,水素原子で最初に観測されたエネルギーシフト量の割合と比較すると6桁(約218万倍)も巨大なもの。

一方,従来知られていたStarkシフトは,電場の強さ(光子数)に比例する原子準位の僅かな変化のこと。今回,深強結合領域において観測されたStarkシフトは,共振回路中に光子がたった1個あるだけで超伝導人工原子の励起状態と基底状態(最低エネルギー状態)が反転してしまうほど巨大。

これらの巨大な光シフトの観測値は,共同研究者のAshhab博士らが導出した理論曲線と良い一致を示した。また,今回の測定結果は,相互作用の強さや光子数をコントロールすることで,超伝導人工原子の自在なエネルギー制御が可能なことを示している。

今後は相互作用の強さを自在に制御することにより,人工原子の高速制御や,測定に伴う量子状態への反作用を最小化する研究を進め,量子状態の精密制御や,量子通信の長距離化に必要となるノード技術への応用を目指す。また,この状態を用いた新たな量子もつれ生成方法などの研究を展開するとしている。

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