日本電信電話(NTT)と横浜国立大学は,クロム材料を添加したサファイア(Cr:Al2O3)物質内において,光を照射した際に,アト秒周期で振動する電子運動の観測に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
可視近傍の光が持つ周波数は,1000兆ヘルツ領域にまで達する。その光が物質に照射された場合,光電界により応答する電子の振動周期はアト秒の時間領域に達する。この電子の光応答現象は,光と物質の相互作用に関わる根幹の物理現象である誘電分極と呼ばれる。
この高速で運動する電子を「止まって見える」ように観測できるかは,如何に速いシャッター速度(=時間分解能)を実現できるかにかかっている。
過去にNTTでは,極短時間のパルス幅(660as)を持つ単一化(孤立化)されたアト秒パルス光源を開発し,窒化ガリウム(GaN)半導体内部で振動する電子運動(周期:860as)の観測に成功した。今回の研究では,より高速の計測と,さらなる未知の電子物性を調査するため,化合物内部の電子挙動の観測に挑戦した。
研究では,単一アト秒パルスのさらなる短パルス化(パルス幅:192as)を図り,さらに高安定化したポンプ・プローブ光学系(時間揺らぎ:23as)を構築することで,クロム材料を添加したサファイア((Cr:Al2O3)物質内で振動する電子運動(周期:667-383as)の観測に成功した。これは,時間分解計測における世界最速の振動応答。
さらに、物質内で混在する二つの材料(クロムとサファイア)間で,電子振動が異なった減衰時間(振動の継続時間)を有していることを初めて解明した。
これらの光応答現象の物理起源である電子振動を理解することは,物質の新たな光機能性を創出する期待に加え,発光素子(ディスプレー・発光ダイオード)や光検出器(カメラ・受光センサー)等の効率改善に向けた研究に役立つ可能性があるとしている。