筑波大学,デンマークオーフス大学らの研究グループは,高輝度光科学研究センターと共同で,原子のシートが積み重なった構造を有する層状物質TiS2(硫化チタン)内の電子の空間分布を,大型放射光施設SPring-8を用いて観測した(ニュースリリース)。
重なっている各シートを構成する原子間の電子密度分布は,密度汎関数理論などの理論計算による高精度な予測が可能で,今回の観測値はこの理論値と
非常に良く一致した。このことから,観測した電子分布の信頼度の高さと,理論予測の正確性が裏付けられた。
一方,シートとシートの間を調べたところ,弱い化学結合を示す電子分布が観測された。シート間の電子分布は理論予測が難しく,複数の方法での計算方法を試みたが,観測結果を再現することはできなかった。シート間の電子分布は,層状物質の機能発現に関与していると想定され,今後,この分布を踏まえた層状化合物の実験・理論研究の活性化が期待されるという。
層状物質は1層ごとのシートを保持する強い結合と,剥がしたり別の原子を挟んだりできるシート間の弱い結合からなっており,これらの性質を利用した幅広い実験研究が進められている。理論計算においては,密度汎関数理論などにより,シート内の強い結合のような基底状態を高精度に予測することが可能だが,シート間の弱い相互作用の計算手法は開発途上となっている。
今回観測された電子分布は,シート間の相互作用の理論計算法の開発にも指針を与えるもの。なぜなら,この電子の分布の再現によって開発した方法の検証が可能になるため。弱い相互作用をも設計することができれば,様々な種類の原子シートを積み重ねて,機能を自在に制御した層状物質の創出につながるとしている。