産業技術総合研究所(産総研)は,風圧の分布を高密度に計測できるセンサーフィルムを開発した(ニュースリリース)。
単一の樹脂のフィルムを切り紙細工のように加工して小さな羽根状の可動構造を形成し,その動きを利用して風圧の分布を計測する。風圧に応じて動く羽根状の可動構造が格子状に並ぶことで,フィルムが受ける風圧の分布を個々の可動構造の動きとして捉える。この構造はバイオミメティクスの観点から得られたもので,鳥の翼を構成する羽根や,田に並ぶ稲穂のように,微弱な力に対して個別に動く構造を,樹脂フィルムを使って形成した。
厚み50mmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムをレーザーで加工し,羽根状の可動構造を10mm間隔でX方向,Y方向にそれぞれ13個ずつ配列させ,169個のセンサーを1枚のフィルム内に格子状に形成した。風圧検出部単体の風圧による電気抵抗値の変化率は,風圧を受けていない状態からおよそ200Paまで連続的に変化し,一般道路を走る自動車の制限速度である時速60kmで受ける風圧を計測範囲に収めることができた。
従来のひずみセンサーでは、ひずみによって生じる電気抵抗の変化率(ゲージ率)が低く,今回のように多点で生じるひずみを一括して検出する場合,個々の可動構造の変化を正確に測定できないという問題があった。これを解決するために,高感度ひずみセンサー用導電インクを独自に開発した。
このインクをスクリーン印刷して形成したひずみセンサーは,ひずみに応じて電気抵抗値が極めて大きく変化する。ひずみセンサーの感度の指標となるゲージ率は約200であり,これは市販の金属箔ひずみゲージの100倍の感度に相当する。開発したセンサーフィルムは自動車のフロントガラスのような緩やかな曲面に沿わせて固定できる。この状態で自動車を時速30kmで走行させたところ,フィルムの表面にかかる風圧の分布を計測することができた。
この結果は,従来では困難であった曲面体にかかる風圧の高密度な分布計測に世界で初めて成功したもの。こうした風圧の詳細な計測は,飛行機の姿勢制御をはじめ,車体や機体の低燃費化に向けたデータ取得など,モビリティー分野での幅広い応用が期待できるとしている。