京都大学の研究グループは,ハロゲン化金属ペロブスカイト半導体の一種であるメチルアンモニウム塩化鉛(CH3NH3PbCl3)に、様々な波長のレーザー光を照射して発光測定を行なうことで,その光学特性を解明した(ニュースリリース)。
ハロゲン化金属ペロブスカイト半導体は,ペロブスカイト構造を有する半導体の一種。その中で,メチルアンモニウムイオン(CH3NH33+)などの有機物を含む有機無機ハイブリッドペロブスカイトは,比較的低温かつ簡便な塗布プロセスで高品質な薄膜を作製できるため,低コストかつ高効率でフレキシブルな光デバイス材料として世界的に注目を集めている。特に,メチルアンモニウムヨウ化鉛(CH3NH3PbI3)を用いた薄膜太陽電池の効率は既に22.7%まで達し,ぺロブスカイト太陽電池として実用化に向けた研究が盛んに行なわれている。
これまでは,ペロブスカイト半導体の中でも,光吸収と発光の色を決めるバンドギャップエネルギーが小さく,太陽電池に適した物質を中心として研究が行なわれてきた。一方で,ペロブスカイト半導体にはよりバンドギャップエネルギーの大きな(ワイドギャップな)半導体も存在するが,それらの基礎的な光学特性は十分に明らかになっていなかった。
そこで研究グループは,青色領域にバンドギャップエネルギーを持つワイドギャップペロブスカイト半導体であるメチルアンモニウム塩化鉛(CH3NH3PbCl3)の単結晶および薄膜試料を作製し,発光励起スペクトル測定という手法を用いて基礎光学特性の研究を行なった。この手法は光吸収させるレーザー光の波長を掃引しつつ発光スペクトルを測定する分光法で,物質の光吸収と発光の相関関係を明らかにすることができる。
測定の結果,この半導体の中では室温において電子と電子の空席(正孔)が一体となった状態(励起子)が存在していること,さらにその状態は自身が放出した光を再び吸収する過程を効率的に繰り返すこと(フォトンリサイクリング)が分かった。励起子によるフォトンリサイクリング効果はこれまでの半導体では観測されなかった現象であり,この研究によってハロゲン化金属ペロブスカイトの新しい光学特性が明らかになった。
フォトンリサイクリングが効率的に起こるということは,この半導体が高い発光効率を持ち欠陥や不純物が少ないことを意味すりう。ハロゲン化金属ペロブスカイト半導体は低コストかつ高品質な薄膜を作製できるため,フレキシブルで高効率な青色発光ダイオードや近紫外領域の光検出器などへの応用が期待されるという。