大阪大学,仏エコールポリテクニーク,独欧州XFEL,露応用物理学研究所,米サンディア国立研究所,仏原子力・代替エネルギー庁の国際共同研究グループは,超高強度レーザーによるイオン加速において,加速電場の励起時に非常に強い自己生成磁場が発生し,磁場がイオン加速に影響を与えることを明らかにした(ニュースリリース)。
今回,強磁場発生のメカニズムを理論的に明らかにするとともに,10万テスラ級磁場の兆候を実験で捉えることに世界で初めて成功した。この成果は将来医療応用等が期待される100メガ電子ボルトを超えるエネルギーを持つイオン源の開発に向けて,必要なレーザー条件に対して指針を与えるもの。
高強度レーザーを厚さ数ミクロンという極薄金属板に照射すると,金属板に付着する不純物の中に存在するプロトン(水素イオン)が,他のイオンよりも優位に加速され飛び出す。これはプロトンの電荷と質量の比が,他のイオン種よりも大きいためであり,このような加速をレーザー駆動イオン加速と言う。
現在,プロトンのエネルギーは数10メガ電子ボルトを安定的に達成している。癌治療などの医療応用や非破壊検査といった応用に利用できるとされる100メガ電子ボルトのエネルギーに,あと少しで到達できるとされ世界各国で活発に研究が行なわれている。しかしながら,レーザーのエネルギーを上げても,プロトンのエネルギーが50メガ電子ボルト程度で飽和してしまい,その理由がわからず研究は足踏み状態にあった。
今回の研究成果は「なぜレーザー加速によるプロトンエネルギーが飽和してしまうのか?」という疑問に答えを出すとともに,今後のレーザー駆動イオン加速の効率を上げるための重要な知見を提供し,100メガ電子ボルト以上のプロトンエネルギーを達成するための指針を与えるもの。
この研究の成果により,レーザー照射中に成長する強磁場の影響を抑えることで,加速長を伸ばすことができ,結果としてイオンのエネルギーを大幅に改善できる可能性が示された。レーザー駆動イオン加速の一層の発展が期待される。
さらに,強磁場発生のメカニズムと10万テスラという強磁場で磁化した高エネルギープラズマ中の物理は,宇宙プラズマとの関連性からも興味深く,強磁場中の原子過程など宇宙プラズマの素過程を調べることにも貢献するとしている。