理化学研究所(理研),大阪府立大学,日立製作所らの共同研究グループは,最先端の実験技術を用いて「波動/粒子の二重性」に関する新たな3通りの干渉実験を行ない,干渉縞を形成する電子をスリットの通過状態に応じて3種類に分類して描画する手法を提案した(ニュースリリース)。
「二重スリットの実験」は,光の波動説を決定づけるだけでなく,電子線を用いた場合には波動/粒子の二重性を直接示す実験として,これまで電子顕微鏡を用いて繰り返し行なわれてきた。しかしどの実験も,量子力学が教える波動/粒子の二重性の不可思議の実証にとどまり,伝播経路の解明には至っていなかった。
今回,共同研究グループは,日立製作所が所有する原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡を用いて世界で最もコヒーレンス度の高い電子線を作り出した。そして,この電子線に適したスリット幅0.12μmの二重スリットを作製した。また,電子波干渉装置である電子線バイプリズムをマスクとして用いて,電子光学的に非対称な(スリット幅が異なる)二重スリットを形成した。
さらに,左右のスリットの投影像が区別できるようにスリットと検出器との距離を短くした「プレ・フラウンホーファー条件」での干渉実験を行なった。
その結果,1個の電子を検出可能な超低ドーズ(0.02電子/画素)条件にて,非対称な形状の二重スリットを通過した電子線の干渉縞の強度分布を,検出器に到着する個々の電子の個数分布として検出した。
この手法を3通りの実験で行なうことで,強度分布を,左側のスリットを通過した電子,右側のスリットを通過した電子,両方のスリットを同時に通過して干渉縞を形成した電子の三つに分類し描画できた。
この結果は,干渉に寄与した電子のみを検出できる可能性を示しており,両方のスリットを同時に通過して干渉縞を形成した電子を分類する究極の実験「which-way experiment」への手がかりを得る結果だという。
研究グループは今後,電子検出器の時間分解能を上げるなど現在の電子線技術をさらに発展させ,量子力学の根幹に迫りたいとしている。